平成30年度においては,29年度に実施した2つの実験結果の分析を行った。1つ目の実験は,プライムをマスキングするのではなく,プライムが知覚できる程度に長く提示し,ターゲットの語彙性判断課題を行う実験であった。分析の結果,この実験においても明確な語彙競合現象は確認されなかった。2つ目の実験は,プライムとして未知語を使用し,マスク下のプライミング法による語彙性判断課題を行う実験と,同じ未知語を学習した後,その語をプライムとして同じ語彙性判断課題を行う実験であった。分析の結果,未知語を学習しなければ,促進的なプライミング効果が見られるが,未知語を学習すれば,そのプライミング効果が見られなくなるという,プライム語彙性効果(prime lexicality effect)が確認された。この結果は,学習による未知語の部分的な語彙化(lexicalization)を示すものと解釈される。 平成28年度からの一連の実験結果は,第二言語(L2)視覚的単語認知においては,第一言語(L1)話者と同じように語彙競合は起こらないことを示している。そこで,平成30年度においては,これまでのL1およびL2の語彙競合研究において注目されていなかったプライムとターゲットの間の音韻的類似性という新たな要因に着目し,プライムとターゲットの形態的類似性に加え,音韻的類似性を持つ場合にL2視覚的単語認知において語彙競合が起こるか否かを検討した。実験の結果,プライムとターゲットが類似する実験条件では,類似しない統制条件よりも語彙性判断課題における反応時間が遅くなり,これまでの実験よりも明瞭な語彙競合現象が確認された。
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