研究課題/領域番号 |
15K16814
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
川口 悠子 法政大学, 理工学部, 講師 (60612116)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 原爆 / 広島 / 平和都市 / 復興 / 日系人 / 救援 |
研究実績の概要 |
本研究は、1940年代後半というアジア太平洋戦争の終結直後の時期に、米国の人びと、とりわけ広島県出身者を中心とする在米日本人から広島に救援物資や復興資金が寄せられたことから着想を得た。そして、それらの援助の実態と背景を明らかにすること、そして援助が広島市の復興理念や復興計画に与えた影響を考察することを目的として、研究に着手した。 本年度は、米国社会から広島に関心が向けられた背景をより深く検討するため、ネヴァダ州にある核実験場に焦点を当て、米国の核開発と、それがもたらした被害が、米国社会でどのように記憶されているかを論じた。これは「ネヴァダ実験場から見る米国の原爆実験の歴史と記憶」(若尾祐司・木戸衛一編『核開発時代の遺産』昭和堂、2017年9月出版予定)として出版される予定である。 この執筆を除いては、史料調査および翻訳を中心に研究を進めた。史料調査については、平成28年8月に広島で、また平成29年2月にカリフォルニア州ロサンゼルスで、それぞれ史料調査をおこなった。これらの成果は来年度以降の発表を計画している。さらに研究代表者は今年度より、小倉馨書簡の日本語訳プロジェクトに加わった(以上、詳細は「進捗状況」欄を参照)。このプロジェクトに加わることで、米国の市民や団体と広島市とのあいだの結びつきや、そこで広島県出身者らが果たした役割が明らかになると期待される。史料の量が多いことなどから今年度中に刊行することはできなかったが、来年度の刊行を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年8月には、広島市を訪問して調査をおこなった。具体的には、広島県立文書館では、1940年代後半に製作された宣伝映画に関する史料を、広島市議会では同時期の市議会会議録を、それぞれ閲覧した。会議録は分量が多かったためまだ調査の途中であるが、これらの史料により、広島市役所や市の経済界が、援助以外にもさまざまなかたちで、米国からの資金導入を模索していたという知見を得た。 平成29年2月には、キリスト教会を中心とした人的交流の様相をさらに具体的に明らかにするため、ロサンゼルスにある南カリフォルニア大学のスペシャル・コレクション(Special Collections, University of Southern California)で調査をおこなった。これは平成25年度にシドニー大学でおこなった報告を発展させたものである。 加えて、平成28年10月より、先年発見された小倉馨書簡の読解と翻訳に参加している。これは1950年代後半に、当時フリーランスで調査・日英翻訳をおこなっていた小倉馨が、オーストリア在住のジャーナリスト、ロベルト・ユンクの依頼を受けて広島で取材をおこない、その成果をユンクに書き送ったものである。核兵器が人間と地域社会にもたらす悲惨を描いたユンクのルポルタージュ『灰墟の光』はこの書簡をもとに執筆された。しかも小倉(1920年~1979年)は米国で生まれて幼少期を過ごした後、1930年代に日本に帰国、戦後は広島市役所などに勤めた人物である。そのため、小倉馨書簡の読解と翻訳を進めることで、戦後の広島の地域社会についてより深い知見を得つつある。さらに、小倉本人を含め、移住経験者の人的連関が、個人レベルやキリスト教ネットワーク、その他の組織・団体など、さまざまなレベルで広島と米国社会を結びつけていた、その様相も明らかになってきている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、広島市役所や関係者が、外国からの援助や資金導入をどのようにとらえていたかを明らかにするため、広島市議会での史料調査を継続し、あわせて広島大学文書館に保管されている文書も閲覧する。加えて大学の休業期間を利用して、ユタ州ソルトレーク市にあるユタ大学(University of Utah)にて、マイク・マサオカの史料(Mike M. Masaoka Papers)の調査をおこないたい。マサオカは日系二世の著名な活動家だが、本年度の調査により、広島市長が訪米して、外国資本導入の交渉を試みた際に協力したことが明らかになっている。マサオカ史料の調査を通じて、交渉の詳細を明らかにすることがこの調査の狙いである。 これと並行して、前項で述べた小倉馨書簡の翻訳を継続する。翻訳の成果に解題を加え、年度内に共訳書として刊行することを目指している。そして、本年度に南カリフォルニア大学でおこなった調査をもとに、広島とロサンゼルスの教会との交流の背景について9月に広島市内で報告すること、また昨年度にメリーランド州カレッジパークの米国国立公文書館でおこなった調査の成果を、被爆女性の渡米治療プロジェクトに対する米国政府の方針を取り上げた論文として執筆することを、それぞれ計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度当初はハワイ在住の広島県出身者がおこなった救援活動の背景と実態とを明らかにするため、ホノルル市などで調査をおこなう予定だった。しかし、小倉馨書簡の読解・翻訳により得るところが大きいと判断し、ハワイでの調査を延期し、このため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
小倉馨書簡を読解・翻訳する研究会はおもに広島でおこなわれるため、出席の際の旅費に充てる計画である。
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