本年度の研究目的は、日中戦争期に日本が華中において事実上の占領地支配を開始し、華中の統治主体を国民政府から日本へと転換していったとき、在華権益に深く関わるイギリス人がいかなる反応を見せたのかについて、中国海関(主に上海)を例に考察することにある。 本年度はほぼ「研究実施計画」に記した通りに研究を進めた。ただし、中国における史料調査は、当初予定していた中国第二歴史档案館での史料閲覧が困難となったため、調査先を上海社会科学院に変更して史料収集を行い、有意義な結果を得た。台湾での史料調査は、中央研究院近代史研究所のほか、国史館でも行った。 これらの史料をもとに、日本は日中戦争期に上海の海関にいかに影響力を及ぼそうとしたのか、さらに日本・イギリス・国民政府など多方面から加えられた圧力のなかで、イギリス人総税務司がいかなる対応をとったのかについて、具体的な交渉過程を明らかにした。また本研究は、当初の計画では華中を対象としていたが、日中戦争期の華北情勢に関する国際会議に参加した際には、華北の事例についての報告も行い、華中との比較の視座を得るとともに、華北の事例が華中の事例にいかに影響を与えていたのかについても、検討する機会を得た。この報告をもとに、日本の華北支配からの連続性という視野を持って、本年度の研究内容を位置づけ直すことができた。そのほか本年度の研究成果として、共著書収録論文1点、雑誌論文1点を発表した。
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