平成29年度は、前年度までに収集が完了していなかった水野忠成政権関連史料の収集を行い、それを用いた水野忠成政権に関する研究を行った。 収集した史料は、首都大学図書館所蔵水野家文書に含まれる老中日記および老中の元に集積されていた風聞探索書や幕府政治に関わる申し合わせ・伺書きなどである。収集した老中日記は、文政9年(1826)から天保4年(1833)の松平乗寛日記および文政3年から天保5年の水野忠成日記である。なお同史料群は所蔵機関によって撮影済みであるため、マイクロフィルムのプリントアウトによって収集した。 11月には『近世中後期の藩と幕府』(東京大学出版会)を上梓した。そこでは、水野忠成政権期を中心とする19世紀前半の江戸幕府の政治権力構造を分析し、将軍家斉の実父・将軍側近の諸役人、および老中の水野忠成が絶大な権力を所持していたことを明らかにした。また同書で行った分析の結果、水野忠成政権期前半においては、文化14年(1817)から文政8年の期間に奥右筆組頭を勤めていた布施蔵之丞が、諸大名と幕府中枢部を取り次ぐとともに、目付などの幕府実務役人の政務処理に深く関わっていたことが明らかになるなど、これまでの想定以上に重要な政治的位置にあったことを指摘することができ、同時に奥右筆の検討が幕府政治を解明する上で必須であるという課題が明らかになった。 ほかに大阪大学中之島センターにおいて開かれた研究会に出席し、近世幕府政治に関わる報告について討議を行った。
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