本プロジェクト最終年度となった今年度は、昨年度から聞き取りを開始したインフォーマント1名への調査を継続した。このインフォーマントは、台湾から鹿児島県奄美諸島への直接の引揚げではなく、内地の別地方での一時的な生活を経ている。ここで体験した周囲からの視線や、同級生との差異の認識についての語りは、本研究に大きな示唆を与えるものであった。また、旧制中学に入学後の引揚げだったために、引揚げ前後の両地での学校生活についての記憶は鮮明であり非常に興味深い語りもあったが、言語経験という意味では、より低年齢層の引揚者のほうが鮮烈な経験をしていることがわかった。 なお、聞き取り調査については、上記以外の過去2年度に行った調査の総体的なまとめも併せて行った。 資料調査については、昨年度アクセスした引揚経験者によって書かれた当時の日記の翻刻作業を継続しつつ、東京外国語大学で保管されている当該者の他の日記類のデジタル化を支援した。引揚げに関しては、現地での生活の様子や引揚状況についてのオーラルヒストリー、引揚者文学研究、公的史料の整理など、さまざまな研究分野で触れられている。そのなかでも、引揚経験者によって当時書かれた日記という一次資料は貴重であり、遠くないうちに公開されることが望まれる。 最後に触れておくが、本プロジェクトでは充分に扱えなかったが、鹿児島県大島郡喜界町出身の外地引揚者の調査は、聞き取り調査・資料調査ともに、もう少し深めていける可能性があるものと考えられる。今後の課題として継続していきたい。
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