本年度は、本研究の総括として前年度に発表した論文「東アジア海域世界の境界人と政治権力」(『日本史研究』679号)の充実化を企図し、とくに沖縄本島における王権形成の過程について、東アジア海域世界の動向をふまえて考察を進めた。いぜんとして課題は多く残るものの、14世紀後半の沖縄本島をとりまく状況について、沖縄本島の現地勢力、日元貿易の担い手とその後継者たる海商、元明交替に伴いアジア各地に流出した華人勢力それぞれの動向をふまえ、段階的に把握する手がかりを得ることができた。また、これとあわせて14世紀以前の沖縄本島の動向についても文献・考古双方の先行研究から論点を整理した。 また、14世紀後半の朝鮮半島及び中国沿岸地域における「倭寇」の活動と、それに対する高麗・朝鮮王朝、明朝の対応に関しても、前年度に引き続き、調査・研究を行った。なお、「倭寇」の動向は、琉球王国の形成とも深く関わるため、上記論点とのすりあわせも引き続き課題となる。また当初、その一環として対馬における現地調査を予定していたが、これは残念ながら果たすことができなかった。 この他、初期日明外交に関わった春屋妙葩の周辺を探る目的で、丹後隠棲中に春屋が円覚寺の仏牙舎利を手にした「史実」の意味を考察しようとした。これについては、円覚寺仏牙舎利をめぐる言説を整理するなかで、これを史実とみなしうるかという点で疑問を抱き、当初の目的とは異なる方向に議論が及んだが、結果的に円覚寺仏牙舎利由来譚をめぐる研究を前進させることができた。 また、本研究と関わりの深い良質の論文集に対する書評・紹介を数点、執筆した。
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