従来、日本の古文書の歴史は、律令国家における官文書からの変容過程、私文書である書状が中世において公文書化するという流れで語られてきた。それに対して、本研究では、律令国家の時代(8世紀)における書状の利用実態を明らかにしたうえで、官文書系統の文書と如何なる関係にあったのか、文書利用全体のなかでの位置づけがどのように変容したのかを明らかにした。それによって「官文書から書状へ」ではなく「官文書と書状」の歴史として日本の文書史を構想した。こうした視角は、中世の権力の理解とも密接に関わるものであり、本研究では「太政官」と家(権門)との関係、鎌倉幕府権力の多面性(下知状と御教書・書状)について論じた。
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