本研究では、高齢化社会の歴史的形成過程を地域社会の変化に即して明らかにすることを目的としてきた。初年度の2015年度には研究の課題と個別資料分析を併せた「高度成長期地域社会における高齢者の研究」を『農業史研究』50号に発表した。最終年度である2017年度は研究成果の公表を中心的な課題と位置づけて、2017年10月に開催された日本史研究会大会において「「老い」に集団で向きあうということ」として研究発表を行った。本発表は同タイトルの論文として2018年3月に刊行された『日本史研究』667号に掲載された。戦後社会史の研究において高齢者の視点はこれまで欠けていたのに対し、論点提起を行うことができた。 当初の計画では農村部を中心とした計画であったが、研究遂行の過程で調査地を都市部にも拡大した。大阪・神戸両市の老人クラブを訪問し、それぞれの機関誌の閲覧を許可されたことで、農村と都市の差異を分析に付け加えた。また、老人クラブ資料の都道府県ごとの調査のため各図書館や博物館等に照会をおこない、個別事例の位置づけを確認する作業も一定程度進んでいる。こうした一連の調査の過程で高齢者による自主的な活動の資料が喪失している一面も明らかになり、今後の対策が必要であることが明らかにできた。本研究の結果として、政府による施策が本格化する1970年代以前の高齢者たちの自主的・社会的な活動がどのように発生し、拡散していったのかについて、地域に存在する一次資料を収集・整理し、解明した。 また、研究計画で立案した社会教育と女性史の研究についても、農村部での社会教育に従事した公民館関係の資料を閲覧・整理することと共に『月刊社会教育』の通読をすすめて、高齢者教育が全体としてどのような議論と結びついてきたかを検討している。 得られた研究成果は研究協力をいただいた各地の方に送付することで還元した。
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