最終年度である平成30年度は、初年度、第2年度にかけて行った日本中世の戦死者供養・三界万霊供養の事例収集、関連資料収集の補充調査および分析のまとめを行った。 事例収集は、自治体史などの金石文史料による調査を継続した。『奈良県史 金石文編』『大阪金石志』で「三界万霊」等の文言使用の事例を網羅的に収集して傾向を把握したほか、『山梨県史』で応永18年(1411)板碑銘で石造物としては「三界万霊」文言の早い例を確認するなど、事例収集に一定の成果を得た。 中世の「三界万霊木牌」が所蔵される愛知県豊橋市の普門寺では、関連史料の調査を継続しているが、17世紀に遡る史料が新たに見いだされた。概要調査の結果、三界万霊供養に発する普門寺の復興事業に関わる重要史料であることが判明した。新出史料の紹介およびそれを組み込んだ論文作成のために分析を行った。 現存する三界万霊木牌は、一面では中世木札資料・伝世木簡であり、史料学的に検討していく必要がある。中世木札資料の関連調査として、奈良市霊山寺所蔵の「寄進札」の原物調査を行った。霊山寺所蔵寄進札は約40年ぶりに原物が確認されたものであるが、本研究では赤外線撮影によって銘文判読を行い、改めて翻刻をし直し、内容分析を行った。その成果をもとに「鎌倉・室町期の大和国霊山寺と鳥見荘」(『元興寺文化財研究所研究報告2017』)を執筆した。 3か年にわたる本研究成果の全体について、『平成27~29年度科学研究費補助金〔若手研究B〕研究成果報告書 日本中世における戦死者供養の実証的研究』にまとめて、刊行した。本書において、戦死者供養および三界万霊供養の系譜と展開を明らかにし、普門寺所蔵三界万霊木牌をはじめとする現存の三界万霊牌の位置づけを検討した。また、各種の三界万霊牌の原物資料調査報告や日本中世戦死者供養年表稿を収録し、今後の研究進展の基礎史料集たることを意図した。
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