研究課題/領域番号 |
15K16843
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小川 道大 金沢大学, 国際基幹教育院, 准教授 (30712567)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 鉄道 / 内陸交易 / ボンベイ / インド |
研究実績の概要 |
平成27年度(初年度)の実施状況報告書において、本研究代表者は①ボンベイ港と内陸交易の拠点となる町(Qasba)との交易を示す統計資料の収集、②19世紀の地税取決め報告書に記載された内陸市場の位置分析、③内陸交易拠点となる町で活動した商人に関する統計・叙述資料の収集という3点を平成28年度の研究課題として設定した。 ①の統計資料としてIndia Inland Rail and River-borne Trade ReturnsおよびBombay Trade and Navigation Annual Statementsを大英図書館のインド省記録部門で収集し、ボンベイ市の輸出入とインド西部国内交易を結び付ける予備的な考察を平成29年2月に発表した。②地税取決め報告書の内陸市場位置分析は、ロンドン大学LSE図書館で地税取決め報告書を効率よく収集し、これまで日本国内を中心に収集していたデータ量を飛躍的に増加させることができた。それとともに地税取決め報告書の分析を進め、内陸市場の位置データ入力を続けている。課題②に関してはインド西部の市場分布の長期的な考察を試み、1961年インド人口統計に始まる市場町(Census Town)データをGISを用いて可視化し、市場分布の現状をアジア経済研究所の報告で示した(平成29年7月)。19世紀データとの接合が課題として残った。③内陸拠点で活動する商人の史資料を収集することは極めて困難であった。インド西部のプネー文書館において、19世紀前半の英語の叙述史料および現地語(マラーティー語)の叙述および税関係資料う入手するに留まった。 総じて、課題①は解決し、課題②は研究視野を広げつつ、作業の続行が必要となっている。課題③の解決は困難であり、次年度もある程度の史資料収集が必要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データ収集、データ分析、考察の3点を総合して、本研究は「おおむね順調に進展している。」と代表者は判断する。 データ収集に関しては平成29年度におおいに進展し、平成29年度の「研究実績の概要」で示した通り、統計資料などは概ねデータの収集を終えた。ただし商人に関する史資料は十分に集まっておらず、引き続き、インド・イギリスでの史資料収集が必要となる。考察部分とも関わってくるが、インド西部よりも広い視野で研究を進めるためにスリランカの詳細な地図のデジタルデータを入手するとともに、長期的視野の獲得のために20世紀後半の市場データを人口センサスから入手した。 データ分析に関しては、GISを用いた市場地分析を昨年度に引き続き進めており、平成29年度に入手した統計の本格的な分析を最終年度(平成30年度)に行なう。GISの分析手法に関しては、人間文化研究機構「南アジア地域研究」東大拠点が長年にわたり構築してきた、村町地理データを得て、空間分析の制度が飛躍的に向上した。これを用いて、19世紀半ばの鉄道開通以降のボンベイ市とインド西部内陸町の交易ネットワークを可視化することが技術的に可能となった。 考察面に関しては、平成29年度の研究進展の中で広域的視野と長期的な視野を獲得した。具体的には、ボンベイ港の発展と外国貿易を結び付けることに成功し、19世紀半ばの前後で、ボンベイ港がインド亜大陸の域内交易の中心からインド洋貿易貿易の一拠点と変化したことを示した。また長期的に視野に関しては、市場町(センサス・タウン)の21世紀の現状を分析して本研究を現状に結びつけるとともに、平成29年3月の国際会議で前植民地期のインド西部内陸交易の研究成果を発表し、植民地化による変化についてもある程度見通しをつけた。最終年度では、長期的・広域的視野の中に本研究成果を位置づける。
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今後の研究の推進方策 |
下記の3つの課題に取り込むことにより、本研究を完成させる。 第1は、商人史資料の収集と分析である。本課題は平成29年度に解決できなかった課題であり、大英図書館での調査の継続とともに、これまで十分に調査をしてこなかったインド西部のプネー文書館における英語・現地語(マラーティー語)史資料調査をなるべく早期に行ない、得られたデータを可能な限りにおいて本研究に反映させ、町ネットワークの変化と商人の活動の関係について考察する。 第2は、市場地データ分析の完了である。地税報告書に掲載された内陸市場地をGISを用いて地図上に落とす空間分析を初年度より行なっている。この作業を完遂させ、さらにそのデータにボンベイ市とインド西部町との交易統計を合わせて、ボンベイ市とインド西部町の、鉄道開通後の交易ネットワークを明らかにする。 第3は、植民地化による変化の再考察である。本研究は、鉄道開通によるインド西部の経済環境の変化を考察することを目的としているが、鉄道以前の変遷の考察も重視している。この部分の考察として平成29年3月に代表者は植民地化による在地経済の変化という発表を行ない、インフラの植民地化前後のインフラの継続を示した。しかし質疑で、商品流通には大きな変化が植民地化によって起こっており、この点を無視すべきではないという指摘を受けた。代表者はこの指摘を重く受け止め、植民地化による商品流通の変化を既収拾のデータから可能な限り分析・考察し、18-19世紀におけるインフラと流通・交易の関係を考察する。 これら3点の課題に取り組むことで、鉄道開通に前後する時期における、インド西部の町(Qasba)の役割とその結びつき(ネットワーク)の変遷が明らかとなり、本研究は目的を達成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年2月のロンドン・大英図書館での史資料調査において、平成29年度中に完了するはずであった、商人に関する史資料の入手がインターネットによる事前の調査によって困難であることが調査前にわかった。そのため次年度に改めてインドで調査を実施することとし、その費用を次年度に繰越した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年8月下旬にインド西部マハーラーシュトラ州プネー文書館で、平成29年度に完了しなかった商人に関する史資料調査を行なう。繰越額のみでは旅費に十分ではないので、平成30年度研究費と合算して用いる。
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