本研究は、19世紀末のオスマン帝国において非ムスリムをめぐる制度的枠組がどのように機能したのか、それ以前の時代と比べてどのような変化が見られたのかを明らかにすることを目的としていた。こうした目的を達成すべく、本研究ではイスタンブルとエレヴァンでオスマン帝国の行政文書やアルメニア語史料を調査し、情報を収集した。その結果、「特権」や「宗教」、「政治」を鍵概念とする、19世紀半ばに形成された制度的枠組が19世紀末にも同じように機能していたこと、非ムスリムの俗人有力者、とりわけ官僚となったキリスト教徒たちがオスマン帝国政府と非ムスリム共同体の媒介者として重要な役割を果たしたことを確認することができ、前代からの連続性を把握することができた。これは、特に対非ムスリム政策の点での断絶が強調されがちな二つの時代に連続性が見られたことを、また、非ムスリムを切り捨てたと見なされがちな時代において、彼らに対する一定の配慮がなされたことを示す材料であり、研究史上、有益な貢献であるということができる。その一方で、最終年度の研究を通じて、19世紀末にはそれ以前と同様、非ムスリム集団間の対等性、類似性を強調する議論が見られたのに加え、キリスト教徒とムスリムのあいだの類似性、対等性を強調する形での議論も様々な局面で主張を正当化するために用いられたことを明らかにすることができた。これは、オスマン帝国において1856年に掲げられた平等原則が時間をかけて人々に受け入れられ、議論の前提として浸透していったことを示す内容として、注目すべき新たな側面に光を当てることができた成果ということができる。
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