2018年度は本研究課題の最終年度に当たるため、研究の総まとめとなるような活動を行った。 本研究課題では、これまで継続して包山楚簡の読解・訳注の作成を進めてきた。この作業は2018年度も継続して行ったが、その過程で多くの問題点・疑問点が明らかになってきた。そこで本年度は、それらの点について重点的にスポットを当て、研究を深めることに注力した。 特に注目したのが、包山楚簡に見える行政機構である。包山楚簡には楚の行政に関わる単位が多く確認できるが、その中で多くの地名をいわゆる「県」とみなす研究手法が学界において主流となっている。しかし、これに対して疑問を呈する研究も提出されている。本研究課題においては、包山楚簡中のいわゆる「県」とされる字や地名について検討を進め、その中には春秋時代から戦国時代への過渡期であることを示す「県」の用例が含まれることを指摘した。この内容についてまとめたものを、湖北省武漢市で行われた「楚文化与長江流域早期開発国際学術研討会」において報告した。この学会では、学術報告のほかに現地考古学者の案内による遺跡の実地見学も企画されており、楚に従属した曾国の遺跡や青銅器などの出土遺物を実見する機会に恵まれた。なお、この学会での報告内容は、後日正式に出版される予定の学会論文集に掲載される見込みである。 当時の楚の社会と「日書」についての研究も継続して行った。楚の「日書」と秦の「日書」について、包山楚簡から得られた楚の社会の状況や最新の資料状況を反映して調査を行い、まとめた内容を台湾の雑誌に寄稿した(後日刊行予定)。また、時代が下って秦漢時代において、旧楚地で「日書」がどのように利用されていたかについて、清華大学にて行われた「第一届“出土文献与古代文明”青年学者研討会」において報告を行った。
|