本研究は、19世紀後半のオスマン帝国で生じた災害や戦乱などの危機に際して、民間主導のもとにおこなわれた「共助」の論理と実践を、同時代史料に即して明らかにする試みである。とくに、当時のオスマン帝国で発行されていたオスマン・トルコ語(アラビア文字表記のトルコ語)の新聞雑誌で展開された募金活動に注目し、「共助」をめぐる言説のせめぎあいの場となり、かつ、募金活動を通して「共助」の実践の担い手ともなった新聞雑誌の特異な位置に留意することで、史料論の観点からも特色ある研究となっている。 当該年度の国内における研究として、テーマとしてはアナトリア飢饉をめぐる募金活動に焦点を合わせて、先行研究の精査と収集済みの史資料の分析、および論文の執筆等研究のとりまとめ作業を進めた。アナトリア飢饉については、前年度に引き続き『洞察』(バスィーレト)や『日報時事通信』(ルーズナーメイ・ジェリーデイ・ハヴァーディス)などのオスマン・トルコ語新聞の分析を進め、査読論文発表に向けての準備を進めた。また、イスタンブルの大火やクレタ島における反乱に際しておこなわれた募金活動をめぐる英文論文(前年度投稿済み)の掲載が決定し、その加筆修正作業を進めた。 国外における活動として、2017年8月から9月にかけて、トルコ共和国にて在外調査を実施した。とくにイスタンブルに所在するイスラーム研究センターとアタテュルク文庫で、19世紀オスマン帝国における災害募金活動に関連するオスマン・トルコ語の新聞雑誌史料の調査と収集をおこなった。 全体として、2016年7月以降のトルコ共和国における政情不安の影響を受け、当該国における在外調査は十分に実施できなかったが、研究成果の一部を英文の査読論文としてまとめ、国際的に発表する機会を得ることができた。
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