平成29年度においては、前年度に引き続いて、電子データ化した『水利集』の記載内容の徹底的な読解を行った。『水利集』はきわめて難解な吏牘体漢文で記されているため、鹿児島大学の高津孝教授や、広島大学の舩田善之准教授の協力を受けたことは特記しておきたい。これによって元代江南の支配体制について、総合的な考察を行うことが可能となったのである。また前年度までに収集した明代地方志に掲載されている、元代の浙西地方各地の税糧数を抽出し、データ化することをも行い、元代浙西で行われた水利事業をマクロな視点から位置づけることを目指した。その結果は以下の通りである。元代の浙西はそれ以前になされた人間の開発行為により、水文に巨大な変化が生じつつあった。そのため元代の浙西では大水害が多発することになったが、中国本土とモンゴル高原を一元的に支配する元朝にとって、浙西から産出される糧米はその支配を維持するための不可欠の資源であった。そのため元朝は浙西で大きな水利事業を行い、浙西に可能な限り安定的に糧米を算出しうる環境を整えようとしたと考えられるのである。この成果については、論文として平成31年に刊行される予定の『宋代史研究会研究報告集』第11集に掲載する予定であり、現在執筆中である。 また前年度に引き続き、南宋後期の政治史の研究をも行った。元代に引き継がれた南宋後期の支配体制を考える上で、当該期の政治史の研究は不可欠だからである。その成果は、「南宋寧宗朝後期における史彌遠政権の変質過程―対外危機下の強権政治―」として、『史朋』50号(2018年3月刊行予定)に掲載される予定である。またその一部を、2017年9月に開催された国際シンポジウム「史料的新可能性:第二屆宋遼西夏金元史的日中青年学者的交流会」(お大阪市立大学開催)で発表した。
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