研究課題/領域番号 |
15K16857
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
松本 礼子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任講師 (60732328)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | フランス / パリ / ポリス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、旧体制末期において民衆層を含めたパリ住民による反王権的な言動(「悪しき言説」)に着目し、都市統治一般を意味するとともに秩序維持を担う「ポリス」との双方向的な関係においてそれらを考察し、既存の世論研究では捉えきれない旧体制末期の政治文化の変容を包括的に解明することである。 平成27年度は18世紀のポリス論について、これまで行ってきた研究の再整理を行った。18世紀にはポリスを統括する立場にあった警視総監や、現場のポリス担当官らが回顧録や覚書を多数発表しており、現在ではフランス図書館のデータベース上で順次公開されつつある。特に、本課題代表者は、旧体制末期の2名の警視総監(警視総監サルティーヌおよびルノワール)に着目し、彼らの回顧録の精読を行った。これに関連し、フランスにおけるポリス研究を牽引する研究者のひとりであるカトリーヌ・ドニの「伝統と近代の間で-18世紀ブリュッセルにおけるポリスの変容」の翻訳を行い、『都市史研究2 2015』に発表した。この翻訳作業は、フランスを超えてヨーロッパにおける当該時期のポリスの政策理念や実践の全体像の把握に大きく寄与した。 また、平成27年8月にフランスに赴き、国立図書館および国立文書館で史料調査と収集を行った。本課題の計画当初は、平成27年度にポリスの政策思想に関わる史料の拡充を目指していたが、史料状況に鑑み、二年次に予定していた「悪しき言説」をめぐる事例の史料発掘と収集を優先して行った。国立図書館・アルスナル分館所蔵の「バスティーユ文書」コレクションからコーパスを確定し、平成27年度の後半は、これら史料の整理と分析を進めた。従来の研究では言及されてこなかった事例を含むこれら史料の発見は、平成27年度最大の成果であるとともに、その成果の一部は『一橋社会科学』に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では上記の課題を解明するにあたり、以下の3つの段階を設定している。1.「悪しき言説」と見なされた事例の総合的把握、2.ポリスの「悪しき言説」をめぐる政策の解明、3.個別事例におけるポリスの取り組み、実践の解明。 このうち、2.については国内で入手出来るポリス論についての分析は進行中であるが、都市の政策会議、あるいはポリス担当官のレベルでの分析については、平成27年度のフランス現地調査で難しいことが明らかとなった。というのも、計画当初にコーパスとして予定していた国立文書館に所蔵されているY系統の史料(ポリス関係者間の報告書や書簡等)は、主として簡単な業務報告で構成されており、ポリス政策の理念まで抽出することが困難だからである。この点については、フランス出張中に社会科学高等研究院名誉教授であるA・ファルジュ氏に助言を仰ぎ、「悪しき言説」の個別事例のなかから拾い上げていくことにした。したがって、3.に関わる史料収集を優先することにし、計画当初に予定していた個別事例の史料発掘と分析を行うなかで、2.の点を解明することにした。以上が「やや遅れている」理由である。一方で、1.については、既に入手済みの「バスティーユ文書」目録から一定の見当をつけたうえで、史料を網羅的に調査することで、コーパスを確定することが出来た。平成27年度に行った史料収集と分析は確定したコーパスの一部であり、各事例の史料が予想を超えた量ではあるが、計画当初は二年次に予定していた個別事例の分析に着手することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、平成27年度の海外調査で収集した個別事例に関する史料の精読と分析を進めていく。上述の通り、ポリスの政策理念については、各事例における尋問調書やポリス関係者間の書簡から抽出し、それらの分析の中から全体像を把握するという方法を取る。したがって上記の2.と3.の作業を同時並行して行うこととなる。そのなかで、平成27年度に行ったポリス論の再整理とあわせ、旧体制末期のポリスの政策理念を論文の形にまとめる予定である。 また、平成27年度には個別事例に関わるコーパスを確定したが、実際に調査・収集できたのはその一部である。平成28年度も夏季にフランス調査を予定しており、未入手の史料を閲覧、分析する予定である。平成27年度および28年度の研究成果については、関連学会での報告を検討し、研究者との意見交換を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題の遂行にはフランス語による研究書の入手が必須だが、平成27年度に購入希望だった最新の研究書のなかには国内での購入が難しいものがあったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、平成28年度の研究費と合わせて、1.海外調査のための渡航費・滞在費、2.文献・資料の購入、3.第一次史料のデータ化・PDF化に使用する予定である。
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