本研究は、旧体制末期において民衆層も含めたパリ住民による反王権的な言動(「悪しき言説」)に着目し、それまでの世論研究では捉えきれない旧体制末期の政治文化の変容を包括的に解明することを目標としている。 平成30年度は、第一四半期に前年度までに行ったフランス国立図書館(アルスナル分館)および国立文書館での現地調査で収集した史料の解読、分析を引き続き行った。現場のポリス担当官の業務報告書および「悪しき言説」での逮捕者への尋問調書、書簡等が主たる史料であるが、時に同一事件が複数の図書館・文書館に散在するケースがあったため、夏期休業期間中に再度アルスナル分館等での史料調査を行い、史料の補充および再確認を行った。それにより、悪しき言説にまつわる個別事例のさらなる充実がみられたが、史料の保存状態等の理由で当初の予定よりも史料の解読に時間を要することとなった。平成30年度は本研究課題の最終年度であったため、成果の発信に主眼を置くはずであったが、上記の理由で当該年度中の論文の公刊は叶わなかった。今後、段階的に本研究の総括を公表していく予定である。 一方、本研究代表者はロベール・デシモン、ファニー・コサンデによる『絶対王政』を共訳した(刊行年は未定)。これは、都市の枠組みをこえてより広く政治社会における「悪しき言説」の位置づけを考察する上で、極めて重要な作業となったと言える。
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