本研究は、カトリック領邦のマインツ選帝侯領・プロテスタント領邦のファルツ選帝侯領における魔女迫害を比較分析し、近世的国家形成という文脈に魔女裁判の役割を新たに位置付けた。マインツ選帝侯領においては住民からの圧力により在地役人が魔女裁判を進め中央からの統制が行き届かなかった一方、ファルツ選帝侯領では刑事司法を中央で監督・統制するという国家的課題が貫徹され、結果的に魔女迫害は抑制された。魔女の処罰が君主の義務であるとする民衆の論理と、君主による支配と秩序維持の正当化は表裏一対を為し、魔女迫害が上下の相互補完的な関係において展開したことを明らかにした。
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