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2017 年度 実施状況報告書

米加互恵関税論と北米経済統合-19世紀後半におけるカナダ通商政策の再検討

研究課題

研究課題/領域番号 15K16862
研究機関岡山大学

研究代表者

福士 純  岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (60600947)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2019-03-31
キーワードカナダ史 / アメリカ史 / イギリス帝国史 / 経済史 / 米加互恵協定 / イギリス帝国連邦運動 / カナダ・ナショナリズム
研究実績の概要

課題『米加互恵関税論と北米経済統合』の研究実施にあたり、平成29年度は交付申請書に記載した「研究実施計画」に基づき、以下の点を中心に研究を進めた。
一つ目は、オンライン史料の収集、分析である。平成29年度は、公務多忙のため当初予定していた海外での調査を行うことができず、平成28年度に引き続き、デジタル化されたマイクロフィルム史料の分析を行った。具体的には、当該期のカナダ首相をはじめとする政治家達の米加互恵関税に対する認識や、議会における米加互恵をめぐる論争、さらにはアメリカの政治家との間でなされた互恵協定締結交渉に関して分析を行った。これに加えて、昨年度までに収集済みであるカナダ国立文書館所蔵のカナダ製造業者協会文書に含まれる、主要政治家とカナダ国内の製造業者との関税をめぐる陳情や調査の記録の分析も併せて行った。
分析の結果明らかになったのは、昨年度までに明らかにしてきたように、当該期の政治家達は自由党であれ保守党であれ、感情的に密接に結びついているイギリス帝国からの分離については全く考えておらず、むしろ帝国の枠内にありながらアメリカとの経済関係強化を目指していた一方、互恵関税による関税引き下げによってアメリカ製工業製品との競争激化の恐れがある製造業者はアメリカを排除するために一貫してイギリスとの紐帯や帝国の一体性の言説を強調していた。そのような言説と同時に、製造業者は加米貿易の状況について自らの利害の観点から詳細な報告を主要な政治家達へと行っていた。
これは、当該期の米加互恵論が反米・親英といった単純な二元論で語られるものではなく、保守党、自由党の二大政党、さらには経済利害の思惑が複雑に絡み合った中で展開していたということを示している。このような点の一部に関しては、昨年開催されたイギリス帝国史に関するシンポジウムにて発表を行った上で、現在原稿化を進めている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

今年度は、上記の「研究業績の概要」でも若干記したように、申請時に予想していなかった公務が多数重なったため、当初の「研究実施計画」で予定していた海外での史料調査を行うことが出来ず、昨年度までに収集した史料、そして国内にて入手可能な史料を利用して研究を進めた。「実施計画」通りに研究を遂行できなかったことは大変遺憾であるが、本年度に増加した学内業務のためやむを得ないものであった。しかし、今まで入手しながら十分に検討出来ていなかったカナダ製造業者協会文書を時間をかけて検討出来たことは、研究課題である米加互恵論についての政治家を中心とした論争を複層的に捉える上でも非常に有益であった。そのため、達成度としては満足行くものではないが、一定のものであると考える。また今年度の研究業績としては、一昨年度に執筆した入門者向けの概説書の一部が刊行された。またカナダの製造業利害の米加互恵関税への対応を含む論文が刊行された。これらの内容は、本研究課題の成果を反映したものである。

今後の研究の推進方策

本来は、本研究計画は平成29年度で終了する予定ではあったが、上記のように公務による多忙のため、研究計画を予定に従って進めることが出来なかった。そのため、研究期間を一年延長して、平成30年度も引き続き研究計画の遂行を目指したい。具体的には、いまだ行えていない米加互恵論をめぐるアメリカ側の史料収集、分析を行う。調査内容としては、ワシントンD.C.のアメリカ議会図書館に所蔵される、19世紀後半から20世紀初頭の時期に対加互恵に高い関心を示した主要政治家の個人文書を収集する。これに加えて、アメリカにおいてカナダとの互恵協定締結を待望する経済利害の動向を把握するため、ニューヨークのスタテン島歴史協会が所蔵するE.ワイマン文書を収集、分析する。このようなアメリカの企業経営者文書は、実業家の立場からの対加互恵支持の議論を把握する上で重要であると考えられる。これらの史料の収集、分析を通して19世紀後半以降の米加経済関係緊密化の過程を主にアメリカ側の政治家、実業家の観点を中心に把握し、研究計画の遂行を目指す。

次年度使用額が生じた理由

平成29年度は、「現在までの達成度」の箇所にて説明したように、春期休暇中にアメリカ合衆国での史料調査を予定していたものの、申請時の予想以上に所属大学等での校務が多くなり、史料調査を行うことができなかった。そのため、研究費に残額が生じることとなってしまった。申請書に記載した、当初の研究計画通りの研究の実行、予算の使用を完全にすることはできなかったということは極めて遺憾であり、申請者の計画の見通しに問題があったことを認めざるを得ない。しかし、この昨年度の残予算については、すでに申請の上今年度の研究期間の延長が認められているため、平成30年度に予定しているアメリカでの史料調査のために用いて充実した調査を行いたいと考えている。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 20世紀初頭におけるカナダ製造業利害と保護主義運動-メイド・イン・カナダ運動を中心に-2018

    • 著者名/発表者名
      福士純
    • 雑誌名

      『駿台史学』

      巻: 162 ページ: 131-156

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] カナダにおける帝国特恵関税論争の再検討2017

    • 著者名/発表者名
      福士純
    • 学会等名
      明治大学国際武器移転史研究所 第6回シンポジウム 「ブリティッシュ・ワールド研究の新視点―帝国紐帯の政治経済史―」
    • 招待講演

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公開日: 2018-12-17  

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