3年目にあたるこの年は、研究機関の変更の影響から活字の業績を発表することこそできなかったが、これまでの研究において明らかになった、トゥール・ポワティエ間の戦いの記憶の神話化についてと、「カピトゥラリア」が「君主の勅令」として記憶されていく過程についての知見を4つの学会において発表することができた。前者はすでに昨年度論文の形で成果を公表したものに当たるが、西欧中世史家以外も多数参加する多様な学会において研究報告を行ったことで、広い視野の中に自身の研究を位置付けていくための重要な議論を行うことができた。後者については、新たに分析の対象を近世以降にまで拡大して調査を進めていく作業の中間報告にあたるもので、今後論文の形で成果を披露することを予定している。 また、過去2年間に行うことができなかったドイツでの資料調査を行い、とりわけアウクスブルクの守護聖人シンペルトゥスに関する「記憶」の分析に必要な資料を入手することができた。今回の調査により、シントペルトゥスに関する事例の調査に必要な資料はほぼ全て入手できたため、今後はその分析及び分析結果のとりまとめを行っていくこととなる。さらに、シンペルトゥス崇敬の現場となった教会や遺構を訪れることで、崇敬の現場における他の守護聖人との扱いの違いなどについても、文献資料からは得られない重要な情報を得ることができた。とりわけ、20世紀後半に建てられたシントペルトゥス聖堂を訪れ、現代におけるシントペルトゥス崇敬のありかたについて知ることができたのは大きな収穫であったといって良い。
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