最終年度はこれまでの「記憶の管理」に関するこれまでの研究成果のとりまとめを行い、2つの口頭報告の形で、「立法者としてのカール大帝」の「記憶」及び「フランクフルト勅令」とみなされてきたテクストについて、成果の発表を行った。いずれも「カピトゥラリア」の「記憶」に関わる研究成果である。この2つの発表の内容は近日中に論文として公表される見通しである。また、3年目にドイツで資料調査を行ったテーマである、アウクスブルクの守護聖人シントペルトゥスに関する「記憶」の分析結果は諸般の事情から刊行が遅れているが、2020年中には公表される見通しである(原稿自体は2019年春に完成・提出済み)。 4年間の研究により、「トゥール・ポワティエ間の戦い」、「カピトゥラリア」、「シントペルトゥス」という3つの事例について、その「記憶」が構築され定着していく過程を明らかにすることが出来た。ここからは、2~3世代の間に急速に「神話化」が進み、中世盛期~後期にかけて「神話化された記憶」がゆっくりと定着していき、近世の印刷本を通じて急速に広まり、19世紀の近代歴史学の成立以降もそうした「記憶」が残り続けるという過程が明らかになった。我々は、こうした「記憶」が我々の歴史像に大きな影響を与えてしまっていることに自覚的にならなくてはならない。ただし、今回明らかになったモデルがどの程度の普遍性を持つのかについての調査は今後の課題となろう。
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