研究課題/領域番号 |
15K16867
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
國木田 大 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特任助教 (00549561)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 考古学 / 土器付着物 / 炭素・窒素同位体分析 / 放射性炭素年代測定 |
研究実績の概要 |
本研究は、本州島東北部(北海道および東北地方北部)の弥生・続縄文時代以降の文化集団の食性変遷を、土器付着炭化物の炭素・窒素同位体分析、C/N分析等を用いた食性分析から解明するものである。主要な研究課題として、①東北北部の稲作受容と続縄文時代の食性、②トビニタイ文化の食性復元、③器種組成・サイズの違いによる食性差の3つを設定している。当該地域では、弥生時代以降における稲作文化受容の過程、津軽海峡を隔てた古代社会における交易・交流といった重要な研究課題が存在する。また、擦文文化やアイヌ文化にみられるサケ・マス利用や雑穀栽培、外来のオホーツク文化による海獣狩猟等、北方地域に特徴的な生業形態もあり、総合的な生業研究が重要になる。 平成28年度は、予定通り研究計画に沿って分析を実施した。研究課題①では、砂沢遺跡(青森県弘前市)、垂柳遺跡(青森県田舎館村)、湯舟沢遺跡、仏沢Ⅲ遺跡、大石渡Ⅴ遺跡(岩手県滝沢市)、三十刈Ⅰ遺跡、横長根A遺跡(秋田県男鹿市)の分析を行った。現状では、八郎潟周辺の遺跡や砂沢遺跡で海洋生物の影響があり、稲作と併用して漁撈活動もおこなわれていた可能性が高い。研究課題②では、トビニタイ文化の分析と併行して擦文文化を中心に分析を実施した。常呂町周辺の遺跡を対象にした結果、サケ・マス類等の海洋生物が中心であることが分かった。一部でC4植物の影響と考えられそうな試料も確認でき、これまで議論されてきた擦文文化のサケ・マス利用と雑穀栽培という食性と矛盾しない結果であった。人骨がほとんど出土しない擦文文化の食性を、土器付着物から議論できたことは意義が大きい。また、最終年度に比較資料として分析を予定していたロシア・ハバロフスク地方や沿海地方、中国東北部の遺跡の分析を前倒して実施した。ジョルトゥイ・ヤル遺跡、マルムゥジュ1遺跡では淡水魚類とC4植物を組み合わせた食性が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度は、研究課題①「東北北部の稲作受容と続縄文時代の食性」、②「トビニタイ文化の食性復元」に対して十分な成果を得ることができた。学会発表では、第33回日本文化財科学会と第19回AMS研究協会等で発表した。日本文化財科学会では、「ロシア古金属器時代の土器付着物にみられるC4植物の影響」、「大島2遺跡の放射性炭素年代および土器付着物を用いた食性復元」の2本を報告した。また、比較研究で進めているロシア極東地域や中国東北部の分析結果は、以前のデータも含めて整理し、国際誌に発表を行った。 平成29年度の研究実施計画は、28年度の調査成果を受けて、研究課題②「トビニタイ文化の食性復元」、③「器種組成・サイズの違いによる食性差」を中心に進めたい。トビニタイ文化の分析に関してはまだ十分な結果が得られていないため、採取したサンプルを継続して分析する予定である。これまでの結果では、オホーツク文化、擦文文化ともに海洋資源への依存度が高かったことを解明しているが、この食性がトビニタイ文化にも引き継がれたかどうか検討を行う予定である。また、器種の違いによる課題では、続縄文時代の後北C2・D式期の注口土器や、擦文文化の片口土器の試料採取を終えており、当初の計画以上に進展している。 平成30年度に実施予定であったロシア・ハバロフスク地方や沿海地方等の周辺地域に関しては、昨年度から計画を前倒しで実施でき、学会発表や論文発表を行った。ロシア資料に関しては、当該研究期間に実施予定の日露共同調査等に参加し、新たな分析資料の探求、確保に努め、研究の一層の深化につなげたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は、3つの方策に重点を置き進める予定である。①「研究実施の環境整備」、②「別プロジェクトとの連携」、③「研究ビジョンの明確化」である。 ①「研究実施の環境整備」では、昨年度に引き続き東京大学総合研究博物館タンデム加速器分析室との共同利用にて研究を遂行する。この共同利用は平成27年度の研究開始当初から継続している。同施設では、分析環境が充実しており、研究の効率化を図る上で非常に重要である。また、幅広く共同利用が推進され、ユーザー間の情報交換等が活発に行われ、最新の研究や分析装置にふれることができる。 ②「別プロジェクトとの連携」では、特に海外調査の効率化を図る上で重要になる。海外の共同研究は、個人での活動では限界があるため、研究協力者と相談しながら研究を進めることになる。また、発掘調査等で試料を得る場合は、別プロジェクトと連携した方が、多くのデータを得ることができ、研究を進展させることができる。実際に、今回の研究では、平成30年度に計画していたロシア・ハバロフスク地方の調査を連携して行うことができ、当初の計画以上に研究が進んでいる。平成29年度も、実施される発掘調査と継続して連携していきたい。 ③「研究ビジョンの明確化」は、研究当初の計画通り、各年度の研究課題や対象地域を明確にし、研究を遂行する。平成29年度の対象地域・対象文化は、引き続き北海道の続縄文時代以降、特にトビニタイ文化に関して、重点的に研究を実施する。 3つの推進方策を順守することにより、明瞭な研究成果を得る。課題ごとに研究計画や成果を明確にし、学会発表や論文投稿につなげていく。
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