本研究では、墳墓・墓地構造、副葬遺物といった墓制と関連した考古資料に対する分析を通して、朝鮮半島青銅器時代社会の複雑化過程のモデルを構築・説明することを目的とする。具体的には墳墓資料の内、遺構研究に焦点を当てて論を進め、複数基の墳墓が有機的な位置関係を示しながら分布する「墓区」を、個別墳墓の配列状態・位置関係に基づいて独立型、群集a型、群集b型、群集c型に類型化した。 青銅器時代前期後半に墳墓の築造が開始され、土壙墓・石棺墓・周溝墓などは独立型で造営された。また、支石墓築造とともに計画的かつ継続的に墓区を構築することを前提とした群集a型が見られる。後期前半になると、独立型が少なくなり、代わりに群集型が主流をなし、群集a・b・c型すべての形態が見られる。また、大規模な群集をなす墓区が見られる。後期後半は特定個人の墳墓の墓域が極端に巨大化したり、埋葬主体部の地下化は墳墓の可視的要素、非可視的要素がそれぞれ分化していった。 青銅器時代の副葬遺物および副葬行為については、琵琶形銅剣・銅矛、磨製石剣・石鏃といった「武器形副葬品」の登場が特徴となる。武器形副葬品の登場は、前期後半に墳墓築造の開始とともに出現した。その性格については青銅器時代前期後半に社会内における問題解決者としてのリーダーの存在を想定できる。 墳墓資料からみると、青銅器時代においては限定された人間が墓を築造でき、青銅器副葬の希少性、武器形副葬品の登場を勘案すれば、社会内における不平等は確実に存在する。朝鮮半島青銅器時代は平等社会から首長制に移行していく過渡的不平等社会のような性格を帯びるものと考えられる。後期後半には墳墓の構造や墓区構成での突出した個人性、極端化した可視・非可視要素の存在からみて以前の時期に比べて階層化が進んでおり、首長制段階に進入したと考えられる。
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