本研究の目的は、日本列島弥生時代から古墳時代における玉類の流通・消費の具体像を復元し、当該時期に進行した古代国家形成過程に、物質文化としての玉類が果たした機能を明らかにすることである。平成30年度は、補足的なデータ収集と、データの解析を行った。 データ収集では、三昧塚古墳出土玉類を実見し、古墳時代中期後半の様相を考えるうえでの具体的データを収集した。また、昨年度までにデータ収集した事例に関して、発掘調査報告書から出土位置、使用方法の再検討を行った。 データの解析では、①玉類の使用形態と被葬者のジェンダー・社会階層との関係、②セットを構成する玉の来歴・伝世状況や他の副葬品との共伴状況を、通時的に検討した。その結果、ジェンダー区分に対応するような玉類の使い分けは明確には認められないが、社会的上位層と下位層との間での副葬玉類の差異化はみられることがわかった。また、古墳時代前期以降、三角縁神獣鏡などの近畿中枢から配布されたと考えられる器物を出土する埋葬とそうでない埋葬との間での玉類副葬の内容の差が大きいことが明らかとなった。これは、玉類の入手が近畿中枢から配布された他の器物の入手と連動することを示すと考えられる。以上の結果から、古墳時代前期に入り、玉類の流通ネットワークが再編され、近畿中枢をセンターとするいわゆる「威信財システム」へと組み込まれた可能性を指摘した。また、このような変化と連動して、玉類は、さまざまな用途に用いられる装飾品から、上位層の葬送儀礼アイテムとしての側面を強めていることを明らかにした。
|