研究課題/領域番号 |
15K16874
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
岩瀬 彬 首都大学東京, 人文科学研究科, 助教 (70589829)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 実験使用痕研究 / 後期旧石器時代 / 石器使用痕分析 |
研究実績の概要 |
本研究では,日本列島東半部(北海道と本州東半部)の海洋酸素同位体ステージ3(MIS3)後半や,最終氷期最盛期(LGM),そしてLGM後の時期に相当する後期旧石器時代資料を対象に石器使用痕分析を実施し,使用痕の地域的・時期的な多様性と変遷を明らかにする。また古環境情報との比較検討を通して,石器使用行動からみた日本列島東半部における技術適応戦略の多様性と変遷,そしてその歴史的意義の考察を目的としている。 平成28年度では(1)石器使用痕および着柄痕に関する実験と分析,(2)遺跡出土の後期旧石器時代石器群を対象とした使用痕分析,(3)古環境情報の集成と整理,を進めた。(1)では頁岩製および黒曜石製石器を用いた鹿角製槍先の製作実験とその痕跡の記録,および鹿角製柄に装着した着柄痕の記録を行った。(2)では合計14遺跡を対象に分析を進めた。これには本州のMIS3後半の前半期石器群(横針前久保遺跡,仲町遺跡,東裏遺跡,貫ノ木遺跡,大久保南遺跡,武蔵台遺跡)に加え、北海道のLGM石器群である石刃石器群(川西C遺跡)と剥片石器群(嶋木遺跡,柏台1遺跡),細石刃石器群(オバルベツ2遺跡),本州のLGM石器群であるナイフ形石器群(下原・富士見町遺跡,上ノ原遺跡(第2次町道地点),同(第5次県道地点),田直遺跡)が含まれる。各種石器の使用痕を記録するとともに,各時期の石器群にみられる石器使用の特徴を考察するためのデータを得ることができた。(3)では北海道におけるMIS3後半からMIS2の植生に焦点をあて,湿地や低地の連続堆積物に関する研究データの集成作業を進めた。 なお(2)に関する研究成果の一部について,国内学術雑誌へ投稿するとともに,国際学術会議(アジア旧石器学会)において報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度では(1)石器使用痕および着柄痕に関する実験と分析,(2)遺跡出土の後期旧石器時代石器群を対象とした使用痕分析,(3)古環境情報の集成と整理について,総合的にみておおむね順調に作業を進めることができた。 特に(2)遺跡出土資料の分析について,当初の予定では北海道のLGM石器群の分析のみを行う予定であったものの,他時期の石器群を含め合計で14遺跡を対象に使用痕分析を実施する機会を得て,前年度の研究の補足および研究計画の一部を前倒しして進めることができた。また各遺跡から出土している石器のうち,主要な定型的な石器を中心に各種石器を広く網羅的に分析し,使用痕の有無と使用部位,使用方法,そして被加工物を推定するためのデータを得ることができた。 ただしLGMの剥片石器群である柏台1遺跡については出土資料が多量のため,まだ一部の資料については分析が終了していない。次年度に補足調査を行う必要がある。また当初の予定であれば,使用痕分析と古環境情報を統合した比較研究について,次年度の本格的な検討に向け予備的な検討を行うことで,目標達成の上で不十分な項目の洗い出しを行い,次年度の調査・分析の準備とする予定であったが,遺跡出土資料の分析ボリュームが増えたことでほとんど達成することができなかった。次年度の早い段階で早急に検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度においても(1)石器使用痕および着柄痕に関する実験と分析,(2)遺跡出土の後期旧石器時代石器群を対象とした使用痕分析,(3)古環境情報の集成と整理,を継続して進める。またこれに加えて,(4)使用痕分析と古環境情報を統合した比較研究,を行う。 (1)について革紐の製作実験とその痕跡の記録を行う。革紐は複数の部品を結びつける重要な道具である。仮に革紐製作を示す使用痕が明らかになれば,複雑な道具製作を示唆する痕跡として評価することができる。また平成27年度からの実験記録を整理し,使用痕・着柄痕の特徴を整理する。 (2)では平成28年度から継続する北海道のLGM石器群の補足調査に加え,本州のLGM石器群を対象に使用痕分析を実施する。本研究の主要な分析項目である遺跡出土資料のミクロな使用痕の分析には,顕微鏡を用いた石器表面を丹念に観察する必要がある。したがってこの分析には相応の時間を要する。平成29年度も継続してこれらの分析を進め,基礎的なデータを蓄積する必要がある。また平成27年度から継続してきた遺跡分析の成果をまとめ,本州の前半期石器群,北海道のLGM石器群,本州のLGM石器群に推定される使用方法や被加工物の特徴,着柄の有無を整理する (3)では平成27年度からの集成結果を整理し,MIS3後半からLGMの時期における気候,動物相,植生の成果を統合する。 (4)では(1)から(3)までの成果を統合し,比較検討を行う。骨や角あるいは木の加工を示す痕跡や,道具製作を示す痕跡,着柄痕の多寡,石器形態と機能の結びつきの程度などと,気候や植生,動物相との間に関連性が認められるかを検討する。また以上の成果に基づいて,石器使用行動からみた日本列島東半部における技術適応戦略の多様性・変遷とその歴史的意義を考察する。 なお本年度の研究成果に関しても国内外の学会において発表する予定である。
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