本研究は更新世・完新世におけるモンゴロイドの東アジア規模でみた移住・拡散の問題について、実験考古学的な視点を加味した考古資料の比較を通して、極 東アジア人類社会の歴史的動態を相対化することを目的としている。初年度は現地調査準備のための文献資料収集と現地見学、2年目以降は、人類大移動期にお ける更新世・完新世の遺跡を対象とした本格的な考古学的調査を実現した。考古学的調査は、東北芸術工科大学歴史遺産学科長井ゼミナールの学生を主体とし て、南陽市岩部山洞窟遺跡(立岩岩陰)、高畠町日向洞窟遺跡の第4・5次発掘調査、北九州市辻田遺跡第1・2次調査、山形県北町遺跡を順次実施した。これら一連の調査は、 更新世から完新世を対象とした日本列島への人類移動を確かな考古学的証拠に基づき議論するための基礎資料を得ることを目的として実施したものであったが、 縄文時代草創期の泥炭層、居住遺構と新資料の発見、旧石器時代初頭における朝鮮半島ルートでみた中期旧石器の発見など、予想を上回る成果を獲得した。日本列島東北 部における岩部山洞窟や日向洞窟、北町低湿地遺跡の調査においては、完新世初頭の気候変動と対応する人類の居住様式の理解を深めた。最終年度は、これまでの調査成果を統合して、長井謙治編「日向洞窟遺跡―縄文草創期から早期の調査―」(日向洞窟遺跡発掘調査団:370p、2019年3月刊行)の報告書を作成して、4年間の研究成果をまとめた。
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