研究課題/領域番号 |
15K16876
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研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
石井 龍太 城西大学, 経営学部, 助教 (00712655)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 考古学 / 琉球諸島 / 奄美諸島 / 近世史 / 近代史 / 集落 / 屋敷跡 / 豚小屋跡 |
研究実績の概要 |
本研究は奄美諸島・琉球諸島を具体的な対象とし、地理的、歴史的、社会的に境界性を帯びたテーマを選択する。そして考古学、民俗学をはじめとする学際的研究手法を用いて、近世・近代アジアの民衆史を「多重境界性」という視点から追究し、新たな歴史像を提起することを目的とする。2016年度は、昨年度までに拡大発展してきた調査対象、テーマを踏まえつつ、補助的な調査とこれまでのデータのとりまとめを実施した。 年度初頭には、沖縄県南城市知念に位置する底川村跡での測量調査を実施した。2年前から継続的に実施してきたが、2016年度には井戸、水洗い場、家畜小屋遺構の測量調査を実施した。これによって、地表面上に確認される近代期の屋取(農村へと移住した首里士族)が構えた屋敷地の遺構全体が明らかとなった。合わせて村が撮影された米軍の航空写真を発見し、村の展開を知る大きな手がかりとなった。 年度中旬には、調査データのとりまとめと学会等での公表活動を行った。7月には沖縄考古学会大会にて講演の機会を得た。瓦をはじめとする琉球諸島における近世窯業史の展開を主軸に、底川村跡や網取村跡の調査で得られた民衆の瓦と村のデータも盛り込んで発表した。また沖縄県の建設情報誌『しまたてぃ』にて底川村跡の調査報告を行う機会を得ることができた。測量調査の成果である近代期のデータを公表するとともに、これまでに調査してきた西表島の崎山村跡との比較を試みた。 年度後半には、来年度以降につなげるための追加調査を実施した。底川村跡は来年度から発掘調査を実施するため、関係者との調整を行った。また継続的に調査を続けている石垣島安良村跡にて踏査を実施し、18世紀後半の津波堆積と推察される重要な層の路頭を確認することが出来た。これまでの発掘調査成果とクロスチェックを実施することで、安良村を舞台に展開した歴史津波と人間活動の展開を押さえることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2016年度は、テーマ・調査対象を拡大した2015年度を踏まえて、持ち越した課題解決のための調査を継続すること、そしてこれまでの成果を取りまとめ、科研の折り返しとなる2017年度以降の課題を確認することを目標とした。 具体的なフィールド調査の対象とした沖縄本島南部の底川村跡においては、地表面上に確認できる遺構の測量調査を完了し、また古写真の発見から学際的に村の歴史に迫る手がかりを得ることに成功した。関係者との調整も順調に完了し、2017年度に予定している発掘調査に向けた準備を整えることが出来た。また石垣島安良村跡では、遺跡の踏査により探索を続けていた堆積層を確認することができた。 そして一連の調査研究成果を発表する機会に恵まれた1年でもあった。底川村跡のこれまでの測量調査成果を公表する論考を発表し、琉球諸島の近世史を再考するテーマでの学会発表を行った。なおこの発表を契機として、歴史区分に関する学会発表が2017年度後半に内定した。また安良村跡に関連した学会発表も2017年度初頭に内定しており、これまでに実施してきた他の集落調査の成果との比較も含めた内容を予定している。さらに奄美・琉球諸島の豚小屋遺構について、2017年度前半には調査成果と関連した公開講座が内定している。
新たな調査成果を上げることが出来、また成果公表の機会にも恵まれ、今後につながる端緒も得られた。年度全体を通じて、予定以上に進展したと自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度からは、4年間に渡る本研究の折り返し期間となる。2016年度までに進めてきた調査研究において確認された課題の達成を目指すと共に、本研究の視点とした「民衆史の多重境界性」に今まで以上に焦点を合わせ、研究の締めくくりに向かって活動する方策を立てる必要がある。 年度前半の大きな課題として、沖縄島底川村跡調査は2017年度からいよいよ発掘調査に着手する。これにより、近世から近代、士族と民衆の境界を経験した村の展開を、実証的に明らかにすることを目的とする。また必要に応じ、資料の年代測定や成分分析など、理化学分析も実施する予定である。 石垣島安良村跡については、2016年度までに得られた調査成果をとりまとめ、学会発表を実施すると共に、これまでの調査成果全体をまとめた報告書の作成を進めていく。 奄美・琉球諸島の豚小屋遺構について、2016年度にはフィールドワークを実施する機会を得られなかったが、これまでのデータを踏まえつつ、必要に応じ夏季あるいは冬季に追加調査を実施する。年度前半にはこれまでの調査内容を踏まえた公開講座が内定している。 また歴史的境界、とりわけ本研究の対象とした琉球諸島の近世期について、年末に学会発表を実施する内定を得ている。そのためにも、年度前半を含めたこれまでの調査成果のとりまとめが重要になる一年となる見込みである。
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