研究課題/領域番号 |
15K16877
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
長屋 憲慶 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 特任助教 (60647098)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 穿孔技術 / フリント製穿孔器 / ヒエラコンポリス遺跡 / 石器使用痕の観察 / 穿孔実験 / 石製容器 / ビーズ |
研究実績の概要 |
エジプト先王朝時代のナカダ文化後半期は初期国家形成期に位置づけられ、工芸品製作を専業的におこなう人々(とりわけフル・タイムの専従者)が現れる。この時期の様々な工芸品は、職人達の高い技術と労力の賜物といえる。中でも、考古学的な可視性から資料として扱いやすいのが石製穿孔器である。この石器を観察し使用法を復元することで、彼ら職人達の技術に直接迫ることができる。こうした問題設定のもと、本研究では、実験考古学的なアプローチすなわち石器使用痕の観察と複製実験から当該期の穿孔技術の解明を目指している。特に、この時期の代表的な工芸品である1)石製容器および2)ビーズの穴あけの方法を検証する。 平成27年度は、上記のうち1)石製容器の穿孔方法の理解を課題とした実験を重点的に行った。まず、ヒエラコンポリス遺跡出土資料を参考にして、三日月形および8の字形穿孔器のレプリカを製作した。そして、この2つの穿孔器を用いて、石灰岩の刳り抜き実験を行った。刳り抜きの方法は、考古資料に遺された使用痕の観察結果に基づいて推定した。 実験の結果、石製穿孔器による石の加工が十分に可能で有ることが確認でき、また以下の具体的な方法が明らかになった。すなわち、1)石製容器の刳り抜き作業は、縦方向の穿孔と横方向への拡幅に分けられ、それぞれに異なる形状の三日月形穿孔器が用いられる。2)縦方向の穿孔に用いられる穿孔器(縦長タイプ)は、長軸方向に着柄され水平に回転して用いられる。一方、横方向の拡幅に用いられる穿孔器(横長タイプ)は、斜めに着柄されて用いられる。3)八の字形穿孔器は、容器下半分の拡幅に利用される。 さらに、作業工程に合わせて異なる穿孔器を用いる以上の刳り抜き方法からは、如何に効率的に石材を切削するかという作業上の工夫が看取され、先王朝時代の職人たちがある程度の大量生産を意識していたことが考察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、石製容器とビーズという製作法の異なる2種類の工芸品をそれぞれ扱っており、製作実験も各々異なる手法によって行われる。当初の計画ではビーズ製作に関する追加実験を始めに行う予定であったが、実際には順番を変えて、本年度は石製容器の製作実験に専念した。この理由は、採択前からすでにある程度の実験結果が得られていたビーズ製作よりも、本年度から新たに始める石製容器の製作実験を先に行うことで、本研究課題全体の見通しを立てておきたかったためである。 この計画変更により、27年度上半期に石製容器の製作実験を実施し、その成果を国内学会で発表した。そして27年度下半期には、これらに関する邦文・英文の論文を作成した。
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今後の研究の推進方策 |
前述した27年度の研究成果および本研究助成採択以前からの成果を合わせると、現在までにビーズと石製容器双方の製作技術について、考古遺物の使用痕観察と複製実験の観点から検証することが出来ている。しかし、本年度はビーズ関連の実験を十分に実施することが出来なかったため、今後はビーズの穴あけ技術に重点を置いた研究を行う計画である。具体的には、補足的な穴あけ実験と、走査型電子顕微鏡による考古遺物の観察である。 エジプト先王朝時代のビーズの材質は多様である。補足的な穴あけ実験では、これまでにまだ試していないカバ牙、アラバスター、石英、瑪瑙、孔雀石、黒曜石といった素材の穴あけ実験を実施することで、データの蓄積を図りたい。 走査型電子顕微鏡(SEM)による考古遺物観察のために、27年度にエジプト現地にてビーズ資料のシリコンレプリカを採取してきている。28年度はこれらレプリカの観察を行うことで、実験結果と考古遺物の比較検討を進める。 以上の方策(考古遺物観察と実験的手法)により、エジプト先王朝時代の穿孔技術に関する総合的な理解を目指す。
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