本研究の目的は、エジプト先王朝時代の穿孔技術の詳細を実験考古学的手法によって解明することである。本研究は、①複製ドリルによる穿孔実験、②石器使用痕の観察・類型化、③考古資料の観察・比較に基づく対象材の特定、という作業を通して、この問いに迫る。特に、この時期に固有の3 つのフリント製ドリルが、「どのように」「どんな材質に対して」使われたのかに注目する。職人達の技術の理解を通して、初期国家の礎となった社会の技術的側面を抉り出す。 最終年度は、石灰岩製容器の穿孔法に関する研究をおこなった。具体的には、当時の工房で使用されたと思われる種々の道具について、考古資料を参考にしてまずはレプリカを作成し、これらの道具を用いて実際に穿孔実験を実施し、製作にかかる時間やテクニックなどを論じた。また、この成果を2017年秋におこなわれた国際学会で発表した。 また、特に初年度、次年度に比重を置いたビーズの穴あけ方法に関する研究については、走査型電子顕微鏡を用いたビーズ孔の観察などを追加実施し、先史時代エジプトの職人たちの製作時のクセや作業能率といったことにも言及した。この成果はすでに査読論文として英語で2017年に出版されており、今後本研究の手法が広く周知され、穿孔技術研究のスタンダードな方法になることが期待される。 以上、3年間の研究期間を通して、これまで当該研究領域で実施例のなかった実験考古学的研究をおこなうことで、当時のモノづくりに関する具体的手法と国家形成期社会の実像に肉薄できたと考える。
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