本研究では南九州及び南西諸島、インドネシアから出土した人骨に付着した歯石を採取し、歯石に残存するデンプン粒を検出した。検出した歯石デンプン粒の形態、粒径の記録を行った。出土人骨の歯石から検出したデンプン粒は生前の植物食料に由来するため、出土地域で当時栽培されていた農作物や植物食の詳細を解明する手がかりになる。検出したデンプン粒の植物種は現生植物資料と比較することで特定できるため、植物資料の収集を行い、デンプンの抽出と形態観察、計測等を行った。それらを基に分類図を作成した。デンプン粒の形態や大きさが、他と比較して特徴がある植物種は同定できるが、堅果類、穀類には分類円が重複するものが多く、明確に同定することはできなかった。そのため、堅果類と穀類については粒径等の再検討を行い、分類円の重複は多少解消され、分類図の有用性が高まった。 インドネシア出土人骨の歯石から抽出したデンプン粒の多くは多角形で、グアム産現生植物のタロイモ、赤タロイモ、日本産ヒエ、キビ、アワと形や大きさに類似していた。タロイモは南西諸島のタイモと関連が深いことからグアム産のタロイモ数種と南西諸島のタイモについて比較検討した。その結果、グアム産の粒径は日本産に比べて大きく、さらに、南西諸島の中でもタイモのデンプン粒の大きさが異なっていた。現段階では歯石デンプン粒の由来植物について、特定の植物種である可能性を考えることはできるが、同定は困難であると考えられる。
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