平成29年度はベトナムのハノイおよびホーチミン・シティの産業集積地域の構造把握分析を行った。ハノイ大都市圏については,自動車部品企業3社,工業団地開発業者2社への訪問調査などを実施した。ホーチミン・シティ大都市圏については自動車部品企業2社を訪問した。いずれにおいても当該地域を代表する大規模企業を含んでおり,事例の一般性や代表性は担保されると考えられる。また,現地訪問した企業の日本親会社に対してヒアリング調査を実施し,当該企業の事業戦略全体を把握した。 同年度の調査から示されることは,ベトナム自動車生産規模は狭小であり,自動車部品産業は企業内国際分業体制における輸出拠点という性格を強く有していることである。また,タイを中心としたASEANの他国から材料を中心とした調達割合が増加してきており,ASEAN域内における部品取引連関よりなる生産システムが,上述の輸出拠点化を支えている構造が確認できる。 調査期間を通じて得られた成果として,インドネシアは進出企業の増加が比較的活発であり,それらがジャカルタ郊外のなかでも東部の工業団地に集中していること,また,取引連関は郊外の団地間で強固になってきていることが明らかになった。その点では,宇根(2011)が明らかにしたタイ郊外における状況と類似した空間的展開が現在のインドネシアで確認される。タイは,産業集積規模の拡大とともにASEANにおける情報・物流・人材の拠点化が促進し,質的な変化がみられるようになっている。ベトナムの場合,自動車組立工場が集中するハノイ大都市圏において,都市や周辺農村の労働力を活用した形で自動車産業集積が大都市近隣において形成されている。また,上述のように国内の自動車生産規模が狭小なため,自動車部品産業は輸出拠点としての位置付けを強めており,このことがベトナム国自動車産業の存立要因の一つとなっているといえる。
|