本研究は、平成27年1月に文化庁からユネスコに正式に世界文化遺産の候補として推薦された「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を例として、世界遺産条約が地方行政や地域社会の中でどのようにして社会的な実態を持っていくのかを人類学的に明らかにすることを目的とした。今回推薦の対象となった構成文化資産がある長崎県五島市では、正式推薦に至るまでに取組まれてきた文化財保護法や土地利用規制法などの制定・施行に関する具体的な変化については住民の認識には温度差が見られ、そこには、法律よりも情報提供・収集に関わる人間関係のほうが大きな影響を与えており、その意味でも、法律の施行は立法や行政関係者だけでない住民を含んだ人間関係に依存しているところが大きい。特に、世界遺産条約などの国際法では言語の境界を越えることから、そのことが特に顕著である。 平成29年度は平成29年6月と平成30年2月の2回に渡り長崎県五島市での現地調査を行うとともに、平成30年1月の研究者招聘、及び、3月のアメリカ・ハワイでの比較調査およびワークショップの開催など、これまでの行政の取組・動向に関する聞き取り調査だけではなく、実際の取組のより詳細な現地調査・参与観察、研究交流ができた。 平成27年度より取り組んできたプロジェクトであるが、平成28年2月の文化庁によるUNESCOに対する推薦書を取り下げ・そしてその後の取組を現在進行形で調査することができたことで、全体的に、住民と行政関係者の国際法と各種法律の認識の違いが逆に明確になり、調査としては独自性の実りのあるものになった。 上記の現地調査およびこれまでのフォローアップコンタクトを基に、平成29年12月のAsian Law and Societyでの発表、平成30年3月のアメリカ・ハワイ大学での発表・情報交換を行うとともに、現在もまとめに取り組むとともに論文を執筆中である。
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