研究課題/領域番号 |
15K16896
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
田村 うらら 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 特任助教 (10580350)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 手工芸 / 人類学 / トルコ / 絨毯 / 生産・流通・消費 / グローバル / 持続的発展 / 価値 |
研究実績の概要 |
2年目となる平成28年度は、1年目に実施した現地調査のデータを整理分析するとともに、後半には二回の現地調査を行なった。 後述のとおり、トルコにおける現地調査を見合わせざるを得ない困難な状況があった分、文献精査や前年度のフィールドワークのデータ整理を精力的に進めた。それによって、トルコ国内の手織り絨毯産地の危機的状況がここ数年のうちにさらに進んだことが明らかになった。 また、後半に行なった現地調査のひとつは1月の海外調査であり、ドイツ共和国において、手織り絨毯のグローバルな流通において非常に重要な役割を果たしている、国際見本市(ハノーヴァー)と港湾都市絨毯商(ハンブルク)の現地調査を遂行し、手織り絨毯という伝統的手工芸のグローバル流通現場の激しい変化と、マーケティングの最先端の一端を仔細に記録することができた。 またもうひとつは、2月の国内調査であり、伝統的手工芸のなかでも絨毯と同じテキスタイルに属する新潟県の小千谷縮および越後上布の生産の現状についての予備的調査を行なった。小千谷縮も越後上布も共に、ユネスコの世界遺産に登録された日本の「伝統工芸品」であり注目度も高いと言えるが、実情としてこのような「遺産化」が生産の現場や産業としての地元地域一帯にどのような影響や変化をもたらしているのかについて、その「品質」と「価値」に留意しながら参与観察と聞き取りを通して明らかにしようとした。この国内調査は、本研究課題の主たる調査対象であるトルコの事例との比較対象として今後比較検討を行なう予定のものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、夏季にトルコ共和国において長期の現地調査を行ない、秋以降に調査から得られたデータを分析したうえで、成果発表に着手してゆく計画であった。しかし、前年度後半から徐々に情勢が不安定化していたトルコ共和国において、2016年6月にはイスタンブルの国際空港でのテロや7月のクーデター未遂とその後の混乱等、夏前に情勢悪化が進み調査を結局断念せざるを得なくなった。そのため、前年度までの調査では成果発表には不足するデータや資料が多く、なかなか研究を計画通り進めることが困難となってしまった。ただし、その分前年度までに収集した資料やデータの精査は進めることができた。また年度末にかけては、本研究課題に関連して絨毯の大流通消費地での調査を行なったり、このような事態において当初から想定していたテュルク系の絨毯生産国アゼルバイジャンでの予備調査を(別予算により)行なうなど、柔軟な対処を心がけた。結果的に、研究成果発表の面では計画から遅れをとっているが、調査による情報収集と精査においては大いに成果が上げられたと自負している。あとは、翌年度に成果発表に力点を置いた研究活動を行なうことで成果発表の遅れを挽回したい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの現地調査データの整理・分析を進め、学会・研究会報告を行ない、議論を通して研究内容の精緻化を図る。夏季にはトルコ共和国の情勢を注視しつつ、可能であれば28年度に予定していた現地調査を行なったうえで、データをまとめ、本研究課題の総括として学術誌に英語・日本語論文を投稿し出版を目指す。講演等アウトリーチ的な活動も随時行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた、トルコ共和国における長期現地調査が、急な情勢悪化により実施を見合わせざるを得ず、当初計画を変更して別の場所で短期調査を行なうこととしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
情勢を注視しつつ、28年度に予定していて実行できなかったトルコにおける現地調査を29年度夏季に行なうこととし、当初29年度に予定していた補足調査の日程に追加する。そのための滞在費に充てる。万が一トルコ調査が困難な情勢となった場合には、アゼルバイジャンのバクー北西部の絨毯伝統的産地周辺に調査対象地を変更したうえで調査を行なう。
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