本研究の目的は、世界最大の規模を持つイスラーム復興運動タブリーグを媒体としたイスラームをめぐるトランスナショナルな地域間交流の実態を明らかにすることである。ここでは、タブリーグの本部がある南アジアとその傘下にある東南アジアを対象に、ヒトやモノ、情報がいかなるネットワークとプロセスのもと両地域のあいだを移動しているのか、それを可能にしている内的、外的要因はなにか、タブリーグの活動によりいかなる動きが両地域のムスリムの私的、公的領域に生まれているのか、といった点について検討する。この目的を達成するべく、2018年度は主に以下の研究を行った。 第一は、タイでの実地調査である。具体的には、タイの南部と中部で、タブリーグの関係者への聞き取りと活動の参与観察、分析を行った。そこからは、タブリーグの中心地である南アジア3ヶ国(インド、パキスタン、バングラデシュ)に、メッカをはじめとするイスラームの聖地と同等かそれ以上の高い地位が付与されていること。南アジア系移民がタイにおけるタブリーグの浸透に寄与しており、同地の宗教指導者層の一角を構成していること等が看取された。第二は、研究成果の公表である。具体的には、これまでの研究活動の成果の一部を、日本文化人類学会での口頭発表や共著書『アジアに生きるイスラーム』(イースト・プレス、2018年)などとして公開した。
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