パナマ共和国先住民エンベラの下で実践されている、先住民共同体について、現地調査を各年度行なった。この企業は、先住民が権利を認められた領土にある森林資源を活用する組織である。現状では、主に木材を伐出している。これは二つの点で新規性がある。ひとつは、従来の生活様式では経済活動は行なわれなかった原生林での経済活動であること。もうひとつは、先住民固有の領土内での活動であるにもかかわらず、政府機構や関係業者など、非先住民的諸機構なしには実現しえない点である。 最終年度は、昨年度までに行なってきた現地調査の成果を踏まえて、二点、確認の調査を行なった。ひとつは、伐採活動と従来の経済活動を共存させるための、土地利用方法法の規制に対する、人びとの見解のさらなる聞き取りである。もうひとつは、原生林が利用される場となることに伴う、先住民の領土を分ける仕方の変化である。 この調査を踏まえ、全体として次のことがわかった。従来は経済活動の対象地ではなかった原生林が、経済活動の場となることによって、土地所有に対する考え方が変わっている。ひとつは原生林までの所有対象となるということである。一方、木材伐出は、それを実現する前に、伐出計画の認可を受ける必要がある。そのために、活動実施以前に、原生林のある場所が誰に割り当てられているのかを定める必要がある。原生林は各集落に所属するものと考えられるようになるとともに、従来は存在しなかった集落間の境界線の設定が、人びとのあいだで論争を引き起こしている。 その一方で、伐出は国家から認可を受ける。その際にいくつかの規制をその場所にもちこむ。その規制は時に、先住民自身の土地利用と齟齬をきたすが、先住民が自らの経験に基づいて規制を組み替えるというよりも、規制との関係で、先住民自身が経験的知識を「旧来のもの」と相対的に価値づけるようになっていることが確認された。
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