本研究は、タイの難民キャンプから第三国へ再定住した難民の定住プロセスを明らかにすることを目的としている。本研究では、非移民国家の日本、移民国家のオーストラリア、福祉国家のフィンランドを比較対象とする。最終年度はフィンランドの南サヴォ県に再定住したカレンニー難民を対象とした追加のフィールドワークを実施した。就業状況、支援の有無、生活環境、教会の役割といった点に加えて、家庭環境、使用言語、社会関係のあり方といった点を参与観察にもとづいて明らかにすることができた。調査の時点で、就職後数年目であるものや、いまだに語学研修や職業訓練学校に通うものなど、その定住プロセスには個人差があることが明らかになった。 本年度の研究では、福祉国家フィンランドでの難民の社会統合の可能性と問題点について分析した。フィンランドでは「移民の社会統合および庇護申請者の受け入れ法」の理念のもと、移民や難民が自国の文化を保持しながらフィンランド社会に参入することが定められている(文化的シティズンシップの承認)。また移民や難民の母語教育も権利としては認められている。ただし受け入れの自治体に母語教育の義務はない。カレンニー難民を対象とした調査では、母語教育は行われていなかった。その民族的多様性からカレンニー難民にとって、何を母語とするのかは必ずしも明確ではなく、調査時において現実の必要性を満たすものではなかったからである。 母語教育に象徴されるように、福祉制度は、必ずしも難民の文化的シティズンシップを保障するものではない。ただし他国に比べ、難民が社会に包摂されていく時間的な猶予は長く、強制的に同化を促すような環境ではない。彼らが定着していくなかで、いかに「同化」されるのか、あるいは自文化をある程度保持しつつ包摂されるのかといった点については、さらなる経年調査を経て判断していく必要があると考えられる。
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