本研究は、文化遺産と地域住民の関係について、タイ国ウドンタニー県の世界遺産バンチェン遺跡を事例に分析した。特に1960年代のバンチェン遺跡発見以降、地域住民らが遺物や遺跡をめぐる世界的動向に巻き込まれてきた様相を、インタビュー調査によって明らかにした。これまで、バンチェンの祭りやイベントにおいて、村の歴史は積極的に共有されてきた一方で、盗掘や遺物販売などネガティブなイメージを含む村人の経験は共有されずにきた。現地調査のデータによって、むしろこの後者のこれまで共有されてこなかった個人の歴史を通じ、村人が遺物や遺跡との紐帯を強めてきたことがわかった。
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