科学研究費補助事業の最終年度にあたり、宮座文書のなかでもごく古い様式を示す頭役差定文書について、一部の県内調査を継続しつつ、研究成果をもとにした祭祀組織の変遷像の構築とその公表を進めた。 まず鎌倉期からの頭役祭祀で知られる多賀大社(多賀町多賀)の「馬頭人祭」について、新たに多賀大社所蔵文書の検討を行ったほか、近隣の胡宮神社(多賀町敏満寺)でも差定儀礼があることが判明したため、4月の春祭りと1月1日の差定式の調査を実施した。このうち多賀大社所蔵文書は中世~近現代の差定儀礼や差定拒否、頭役サイクルの変動などが判明する重要資料である。 あわせて2017年度は、中世惣村文書で著名な今堀日吉神社(東近江市今堀)の宮座行事のうち、頭指しや引き継ぎ式を含む年末・年頭の行事(12月~3月)を調査し、惣村宮座の体制内でも「頭指し」が儀礼的意味を持ち続ける様相を見出した。このほか御上神社(野洲市三上)、下新川神社(守山市幸津川)、八王子神社(近江八幡市南津田)の文書調査を進め、それぞれ目録等の完成が間近となった。 上記の調査から、①一般に中世後期には衰退・消滅すると考えられてきた古典的な頭役祭祀は、中近世移行期の村社会でも持続する、②これに中世後期の惣村宮座(およびそれに由来する長老制の宮座)や近世の「家」を単位とする各種の当屋祭祀が形成・合流する、③その結果、現在の祭祀組織の地域的多様性が構成される、という通史的な変遷像を得ることができた。 これらの研究成果として、平成29年度には頭役祭祀に関する論文1編が刊行され、また辞書原稿1編を脱稿した。さらに関東地方で見出された初期の頭役祭祀文書、オビシャ文書に関しては、昨年度の調査の成果として論文1編等を脱稿しており、これらをもとにした共編著『オビシャ文書の世界』(仮題)がまもなく刊行される。
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