本研究は外地朝鮮における「近代法」(主に私法、本年度は一部公法にも注目した)の伝播過程を明らかにすることを目的とし、①朝鮮現地における具体的な法的紛争を通じて法律実務家(判事・弁護士等)が朝鮮の社会実態をどのように認識し「近代法」を適用しようとしたか、②法律実務家は現地の朝鮮人に対しどのように「近代法」的な社会に誘引しようとしたか、③外地における「近代法」の伝播過程で法学者はどのような役割を果たしたか、以上の3点に着目するものである。具体的には、本課題の最終年度である16年度を含め、研究期間を通じて植民地期朝鮮の裁判資料(韓国大法院電算記録保存所所蔵『光復前民事判決原本』、『朝鮮高等法院判決録』ほか)、『東亜法政新聞(法政新聞)』や『朝鮮司法協会雑誌』など新聞・雑誌にみられる法律実務家の言説、京城帝国大学等の法学者の著作物の収集・分析に努めた。加えて、理解を深めるにあたり各資料の著者につき詳細な来歴を追った。 以上を通じた本年度中の研究成果として、法制史学会(東京大学・16年6月)にて「朝鮮総督府裁判所における司法判断過程」、「植民地帝国日本の知と権力」共同研究会(国際日本研究文化センター・ 16年9月)にて「京城帝大の私法学」と題した口頭報告をそれぞれ行い、また「植民地期朝鮮の談合入札有罪判決に関する考察--司法判断における内鮮間の関係性をめぐって」(『帯広畜産大学学術研究報告』37号、pp. 64-82、16年11月)、「帝国日本における植民地司法に関する研究」(明治大学大学院法学研究科博士学位論文、17年3月)と題した論文を発表した。加えて、本課題の隣接領域の研究者と新たな研究会も立ち上げることができた(今後も継続予定である)。今後は本課題の発展として、朝鮮を含む外地と内地の司法秩序のあり方に注目し、新たな研究課題(科研費課題17K13596)として研究を進める。
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