本研究は、フェミニズム理論の中から生み出されてきた「ケアの倫理」と呼ばれる発想が、法理論に対してどのような寄与をなしうるものなのかについて原理的な考察を行うことを目的としてきた。 最終年度となる本年度(2年目)は、前年度の検討を元に研究成果を発表し、それを論考としてまとめる作業を行った。特に「ケア基底的社会」の原理的考察は現実の法制度とその改革に対してどのような意義を持ちうるのかについて、本研究課題が焦点に据えてきたケアの二重性(労働・苦役としての側面と価値としての側面)のうち、価値としての側面の探求により比重を移しつつ考察を行った。 その結果到達した基本的な視点は、ケアの負担としての側面と価値的なものとしての側面は重なり合って現れることも多いかもしれないが、それらをあえて分節した上で、負担の公正な分担の側面についてそれを可能とする制度を追求することが、ケアの価値についての討議のためにも重要である、というものである。その作業を通じて、「ケアの倫理」の社会理論としての意義を、法理論の内在的論理との関係を意識しつつ、明らかにすることに努めた。 研究の進捗と同時に日本法哲学会の2017年度学術大会の統一テーマ「ケアの法 ケアからの法」に企画の一員として加わり、様々な法分野の研究者・実務家と有益な交流を行うことができた。この学術大会にはシンポジストの一人として報告を行った。報告内容は近日中に公刊される予定である。また、ケアの負担と価値の問題が非常に深刻な形で問われている国際的に移動するケア労働者の問題についても、本研究の問題関心と密接に関連するため考察を進め、年度末に海外での報告に結実させることができた。こちらも早期の公刊を目指す。
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