研究課題/領域番号 |
15K16912
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山口 道弘 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (60638039)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 歴史思想 / 吾妻鏡 / 平家物語 |
研究実績の概要 |
本年度の中心的な研究は、4年間の研究機関の基礎となるべき基礎的研究、すなわち、研究史の整理と、基礎的な史料の採訪、閲読とである。 先ず第1に、国文学研究に於ける『平家物語』の諸本成立史について、主として1990年代以降の業績を対象として研究史の整理を行った。その結果、現在の研究水準では、読み本、語り本という大まかな区分の存在と、読み本系、語り本系の内部での大まかな写本の先後関係は認められるものの、それ以上の全体的な系統樹の探究は難しい、若しくは不可能であることが判った。斯かる研究史の整理に基づき、吾妻鏡頼朝将軍記と読み本系平家物語のうちの延慶本系統の物との読み合わせを行い、特に佐々木氏と渋谷氏との姻戚関係を述べる部分を野田文書と比較検討し、また、東国の神社縁起に反映されたる土着伝承をも横目で見ながら、鎌倉幕府御家人制成立に際して、幕府が選択したと考えられる姻戚関係の特質の対外を明らかにした。 次に第2には、上記平家物語等の国文学系ないし、民俗学系研究史の整理、批判的読解作業の中で、今日では余り注目されることのない佐野一彦の業績に行き当たり、佐野一彦が遺した講義録、書簡等の一部を2回にわたって現地調査した。現時点では未だ膨大な資料の全てを整理し切れていないが、佐野の業績は、基本的にはドイツ文芸学の流れを汲み、これに民俗学(柳田・折口)を加味しつつ、日本の国文学、歴史学の複合的領域を切り拓いたもので、同時代の保田与重郎や和辻哲郎などとも大まかな指向を共有するものであるように推測される。斯かる佐野の遺産は、今後の歴史学、国文学(史)、民俗学史、史学史等の研究の推進に大いなる好影響を与えるものであると考えられる。この研究成果の一部は、平成27年11月17日、藝林会第9回研究会大会で「南北朝正閏論争と神皇正統記」と題して報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、吾妻鏡と平家物語、そして野田文書とを比較した研究成果を論文に纏める最中である。本来は本年度にこの論文を公刊する予定であったが、佐々木氏の系図の考証が難物であったため、刊行が遅れてしまった。 ただし、その他は研究計画書に概ね従って研究が進展している。鎌倉幕府の御家人制度成立過程については、上記の佐々木氏関係の論文の完成によって一段落となるし、その他の史料蒐集については、国文学系統のもの、歴史学系統のもの、共に計画通りに進んでいる。 その他に特筆すべき異常な事態は存在しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
上記の佐々木氏関係の論文を完成させ、公刊して前年度の遅れを取り戻すことを第1目標とする。そして、その上で研究計画にあるとおり、中世後期へと、古典的な武家理解が形成される過程について史料の調査、研究を進めてゆきたい。 平家物語の研究の途上に出会った佐野一彦関係に就いても、全体計画の進行を遅らせない限りで調査・蒐集そして紹介を行ってゆきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査対象資料を蒐集するために数回に亘って国内出張を行ったが、佐野一彦関係資料の調査収集の際に、保存状態の良い資料が予想外に多く、これを蒐集整理して次回の調査の方向を決定するのに手間取ってしまい、結果、予定していた国内出張の回数が減ったのが次年度使用額が発生した主たる原因である。 これに付随し、鎌倉幕府の御家人制形成期に関する研究を纏めて公刊する作業が遅れてしまい、執筆・公刊に関する物品費、謝金を予想ほどには使用できなかったことが次年度使用額が生じた従たる原因である。
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次年度使用額の使用計画 |
上記理由で記した所の、本来使われるはずであった用途に、平成28年度の早期の段階で用いる。すなわち、国文学、歴史学関係の史料蒐集のための調査旅費(高野山大学図書館、静嘉堂文庫など)、そして現在執筆中の佐々木氏関係論文の必要な書籍、史料集購入のための物品費、そして、論文執筆作業の補助労働に対する謝金として用いられる。
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