本研究の目標は、刑罰についての応報主義の内実と正当化可能性について、功績の概念を手掛かりにして考察することにあるが、前々年度に指摘した通り、この問題の十全な検討のためには、現代リベラリズム、とくにその善に対する国家の中立性の理念についての検討が必要と考えた。というのも、功績に基づく取り扱いを許容することはある種の卓越主義的実践を許容することに他ならないと考えられるからである。このような発想から、H30年度には中立性の理念のあるべき形態として、Alan PattenのNeutrality of Treatmentという構想をとりあげ、これに基本的に沿った立場が一定の卓越主義的実践とリベラルな中立性とを適切に両立すると主張した。H31年度もこのアイディアの批判的検討と発展につとめ、世界法哲学会(スイス・ルツェルン大学)で報告を行った。同時に、ここで得られた中立性の理念が、具体的な問題群に対してどのような含意を持つのかについての議論を発展させるため、批判的参照点としてMatthew KramerのLiberalism With Excellenceにおける卓越主義論を包括的に検討する作業を遂行した。また、宗教や文化への中立性理念の適用について、より詳細な議論を展開しているCecile Labordeの論考への検討・批判も行い、その成果は東京法哲学研究会において試行的に発表したものの、活字化については共著プロジェクトの変更に伴って年度内には間に合わなかった。
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