一昨年度の為替差損益に対する課税問題の全体像を把握する作業に続いて,昨年度は個別的な論点の分析を中心に行なったが,それに引き続き,研究計画年度の最終年度に当たる本年度は研究成果の取りまとめ作業を中心に行った。 取りまとめ作業としての研究成果の公表は順調に進んでいる。具体的には,論文「為替差損益に対する課税:貨幣価値の変動と租税法(1)~(3・未完)」国家学会雑誌130巻9・10号790-738頁(2017),131巻1・2号162-107頁,131巻3・4号368-314頁(2018)を公刊した。 これは論文全体の約半分に相当するものである。ここでは,まず,本研究が扱う為替差損益に対する課税に関する問題の所在を明らかにした。すなわち,金銭給付が租税の定義の重要な要素であり,貨幣価値が一定していないことを踏まえるならば,租税法においても金銭それ自体にも着目すべきであることを指摘した。為替差損益に対する課税は,所得課税における貨幣価値の変動を扱うものであると位置付けられる。そして,自国の通貨を価値尺度として所得を計測し,自国の通貨で租税を支払うことの意味を検討すべきであると指摘した。 続いて,本研究の対象は為替差損益に対する課税であるが,租税制度の基底にある貨幣制度も踏まえた租税政策を検討するものであることから,為替差損益そのものに対する考察の前提となる租税法における金銭の位置付けについて検討を行った。特に,所得課税と対内的な貨幣価値の変動について時間軸と空間軸に分けて分析し,インフレーションによる貨幣価値の変動(時間軸)に加えて,物価地域差(空間軸)についても租税法において考慮する必要があることを明らかにした。
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