研究課題/領域番号 |
15K16918
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
栗田 佳泰 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (60432837)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 信教の自由 / カナダ / アメリカ / 多文化主義 / accommodation / 憲法 / 比較憲法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,学校における子どもの信教の自由の保障と判断過程審査の日加比較にあるところ,平成28年度ではカナダ最高裁判所における信教の自由と宗教的中立性の原則の取り扱いについて比較的近時の判決である2012年のS.L. v. Commission scolaire des Ch(eにアクサン・シルコンフレックス)nes判決を主に素材として調査した。同判決は,それまで最高裁法廷意見では明言されていなかった宗教的中立性の原則を初めて明言し,宗教的多様性を教える授業への不参加という信教の自由の行使としての合理的配慮措置を否定する一要素として扱ったものである。 日本でも,剣道実技拒否事件第一審(神戸地判平成5・2・22)では,政教分離原則への抵触の懸念から,合理的配慮措置を採らなったことに裁量の逸脱はないとされた。ただし、同下級審判決が最高裁により覆されたこと(最判平成8・3・8)はよく知られている。 冒頭に掲げたカナダの事例では,問題となった宗教的多様性を教える授業が未実施であったこともあり,カナダ最高裁は実施された同授業が個別の事案において信教の自由を害する可能性まで否定していない。もっとも,多文化主義を国是とすることで知られるカナダであっても,合理的配慮措置が認められるのには一定の限界があることを示したものと捉えることはできよう。 加えて,カナダ最高裁は,憲法典中の多文化主義条項を判決文中に引用することには慎重であることが確認された。ただし,カナダの多文化的事実については引き続き言及があり,ケベック州の同意のない1982年憲法制定の経緯が影響しているものと思われる。 米加比較としては,カナダにおける指導的判例の一つがアメリカとは異なり間接的な負担が課せられる場合にも信教の自由に対する侵害を認め,適用除外の立法措置が全くないならば正当化しなかった可能性につき触れた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第二段階として、カナダにおける信教の自由の在り方、とりわけ学校教育の現場におけるそれについて、日本でも問題となる政教分離原則(宗教的中立性の原則)との連関を明らかにしつつ、考察を深めることができたから。なお、当初は「子どもの」信教の自由に焦点をあてるつもりであったが、実際のところは、「親の」信教の自由の行使として子どもを宗教的に教育する自由が問題とされており、子どもの視点の有無、あるとすればその影響について引き続き関心をもって考察する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、憲法理論研究会や北陸公法判例研究会、学内の研究会等で他の研究者らと意見交換をしながら、着実に研究成果を積み上げていく。 また、憲法と教育法との連関の観点から考察を深めるべく、政治学(公民教育関連)や教育学等の研究者らと意見交換の機会をもっていく。平成29年度は最終年度であり、少なくとも信教の自由と学校教育の現場における判断過程統制との連関については、カナダ最高裁判例を踏まえて、明確にしていく。
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