租税行政におけるソフトな手法の問題として、本年度は、①税法上の選択可能性と選択権行使の税法上の効果(事後的変更の許容性)について、②政策税制としての事業承継税制に対する評価と課題、③相続財産の時価の「評価」の課題について検討した。 ①については、近年の税制改正により、更正の請求の対象および期間が拡大されたことから、これまで以上に更正の請求の重要性が増しており、納税者の権利救済の実効性を高めるために、更正の請求のなしうる範囲、限界について、より精密に分析する必要が確認された。これをふまえ、選択権行使の事後的変更について、現時点(実績報告書作成時)において論文にまとめる作業を継続している。 ②については、税制上の優遇措置をもって一定の政策目的を実現するための政策税制は、広い意味で租税行政のソフトな手法と位置づけられるところ、そのような政策税制が実効的に機能するためには、政策税制実施の効果を検証し、より効果的ならしめるような見直しの機会が必要である。こうした観点から、フランスの事業承継税制に関する最新の状況について調査し、論文にまとめた。 ③課税庁と納税者とが大きく対立しうる点として「時価」の評価の問題がある。「時価」の評価の客観性を担保しつつ、課税庁と納税者とが納得(合意)しうる制度を構築する必要があるのではないかとの観点から、フランスにおける財産評価の仕組みを分析した。この研究に基づき、民法改正により導入される配偶者居住権の評価についての提言をまとめている。また、評価の争いについて、フランスでは第三者機関による紛争解決手法を採用しており、こうした第三者機関がソフトな行政手法の一つとして位置づけられていることが明らかになった。この点については、今後、大学紀要に論文を公表する予定である。
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