研究課題/領域番号 |
15K16920
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長谷川 佳彦 大阪大学, 法学研究科, 准教授 (40454590)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 行政訴訟 / 訴訟類型 / ドイツ法 / 歴史研究 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、ドイツにおける行政訴訟の類型の歴史的展開のうち、ヴァイマル期の状況について研究を進めた結果、例えば次のようなことが明らかになった。 1.ハンブルクとブレーメン以外のラントの行政裁判制度に関しては、確認訴訟を柔軟に認めたバイエルンの判例や、警察処分以外の処分で新たに義務付け訴訟を適法としたプロイセンの判例が現れた。しかし、基本的には第二帝政期と同様の状況にあり、多くのラントでは、個別の法律の規定がなければ確認訴訟は提起できないとされ、プロイセンにおいても、警察処分の義務付け訴訟を認めた判例は依然として見られなかった。 2.それに対して、ヴァイマル期に制定されたハンブルクとブレーメンの行政裁判法は、それまでの司法国家制の影響もあって、抗告訴訟の場合に限られない包括的な概括主義を採用したのみならず、確認訴訟を一般的に許容し、判例においては不利益の事前防止のための確認訴訟がかなり緩やかに認められていた。だが、ハンブルクとブレーメンの行政裁判法は処分の拒否に対する訴訟を明示していたが、判例では義務付け訴訟は否定された。 3.他方で、学説においては、概括主義の採用、確認訴訟の一般的許容及び義務付け訴訟の導入を主張する見解が多く見られるようになってきた。さらに、ハンブルク行政裁判法の場合には、処分の無効確認訴訟も可能とする所説も存在した。 4.さらに、ヴァイマル期にはライヒ行政裁判所設立構想も存在した。そのような構想は第2帝政期から見られたが、ヴァイマル期にはヴァイマル憲法の規定も受けて活発に議論されるようになり、そのための法律の草案がいくつも作成された。それらの草案は結局のところ法律として成立せず、ヴァイマル期にライヒ行政裁判所が設けられることはなかったが、草案に対する学説の反応を見ると、訴訟類型に関する上記の学説の主張を反映していたところがあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は、ドイツにおける行政訴訟の類型の歴史的展開のうち、第1次世界大戦後のヴァイマル期の状況に関する研究に取り組むとともに、第2次世界大戦後の状況の研究に着手する予定であった。しかし、ヴァイマル期の状況を研究する際には、ライヒ行政裁判所の設立構想も対象に含めるべきところ、研究の過程で、そのような構想が第2帝政期から存在したことが分かった。そこで、第2帝政期の議論の分析も行った結果、ライヒ行政裁判所設立構想の全体像を明らかにできたのみならず、さらに「研究実績の概要」に記したような知見も得ることができた。 他方で、ライヒ行政裁判所の設立構想の検討に時間を要した結果、当初予定していた、第2次世界大戦後の状況に関する研究は十分に進展させることができなかった。具体的には、ナチス期の断絶を経て、各州で行政裁判制度が再建された際の議会資料の収集を積み残しており、また、訴訟類型に関する当時の論文・判例の収集・分析もなお補完する必要がある。 この他、平成27年度に行った第2帝政期の状況に関する研究の成果を、所属する大阪大学の紀要に発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、前年度に課題として残った、第2次世界大戦後の行政裁判制度に関する研究を進める。具体的には、まず、議会資料などを用いて、各州で行政裁判制度が再建された経緯を調査する。また、当時の論文・判例をより広く収集・分析することにより、義務付け訴訟の導入や確認訴訟の一般的許容に対して、当時の学説がどのような反応を示したのか、また、義務付け訴訟や確認訴訟が具体的にいかなる場面で用いられたのかといった問題を明らかにする。 研究資料の収集は、前年度と同じく日本国内のみならずドイツにおいても行う予定である。ドイツでの訪問先としては、ミュンヘン大学及びバイエルン州立図書館を予定しているが、それらの施設に必要な資料が所蔵されていない場合には、ゲッティンゲン大学などを訪問することを考えている。さらに、ミュンヘンでは、ミュンヘン大学法学部の公法研究者と意見交換を行いたいと思っている。 この他、前年度に引き続き、ヴァイマル期の状況に関する研究成果を所属する大阪大学の紀要に発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、まず、研究の遂行に当たって収集すべき資料が、相当程度、所属機関である大阪大学、及び京都大学など関西圏の大学に所蔵されていたことによる。その結果、当初の予定ほど文献を購入する必要性が生じなかった。また、研究資料を収集するための国内出張も、申請時は4回予定していたが、上記の理由及び収集すべき資料を綿密にリスト化したために、実際には2回で済んだということもある。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度も、前年度と同じく、ドイツでの研究資料の収集と現地の公法研究者との意見交換を行うため、旅費として直接経費を使用する。出張先としては、さしあたりミュンヘンを考えているが、必要に応じてゲッティンゲンなど他の都市も訪問する。また、新たに刊行され、研究に不可欠な文献の情報を広く集めて積極的に購入する。とりわけ、ドイツの行政訴訟の歴史をテーマとしたハンドブックが刊行されるようであるが、刊行が遅れているようであり、出版され次第直ちに購入したい。この他、必要がある場合には、東京大学など関西圏以外の大学でも資料収集を行う。
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