研究課題/領域番号 |
15K16920
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長谷川 佳彦 大阪大学, 法学研究科, 准教授 (40454590)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 行政訴訟 / 訴訟類型 / ドイツ法 / 歴史研究 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、ドイツにおける行政訴訟の類型の歴史的展開のうち、第2次世界大戦後の状況について研究を進めた結果、例えば次のようなことが明らかになった。 1.第2次世界大戦後、行政裁判制度の再建は州ないし占領地域ごとに行われたが、いずれの制度もヴァイマル期までとは異なり、概括主義を採用したのみならず義務付け訴訟や確認訴訟も一般的に認めるに至った。また、例えば継続確認訴訟の規定が設けられたことについては、それによって取消訴訟が従来担っていた役割から解放されたという側面がある。さらに、アメリカ占領地域の行政裁判法に限られるが、規範統制手続も新たに導入された。 2.もっとも、行政裁判法令が必ずしも明確でなかったこともあって、訴訟類型や救済態様に関して解釈論上議論の対象になった問題も存在した。具体的には、義務付け訴訟の判決の態様、行政行為の無効確認訴訟の許容性及び継続確認訴訟の規定の適用範囲といった問題である。しかし、いずれの問題についても、救済の充実ないし包括的な権利保護の要請を重視する解釈が支持を得るようになったと言える。 3.他方で、行政裁判法令に規定されていない新たな訴訟類型の許容性も争われた。そのような訴訟類型としては、予防的不作為訴訟と(アメリカ占領地域の行政裁判法の場合は例外であるが)規範統制手続がある。前者に関しては、それを認める見解が有力に主張されたものの、否定説も根強く存在し、議論の決着は1960年代まで待たなければならなかった。後者については、それを認めるためには明文の規定が必要であるとして、アメリカ占領地域の行政裁判法以外では許容性が否定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、ドイツにおける行政訴訟の類型の歴史的展開のうち、第2次世界大戦後の状況について、前年度に課題として残した部分の研究を進めた。具体的には、議会資料などを用いて、各州で行政裁判制度が再建された経緯を調査した。また、論文・判例を広く収集・分析することにより、当時の行政裁判法令に規定された訴訟類型に関して解釈論上いかなる議論があったのか、さらには、行政裁判法令に定めのない新たな訴訟類型の許容性についてどのように考えられたのか、といった点の考察を行った。その過程では京都行政法研究会で報告を行い(テーマは「ドイツにおける行政行為の無効確認訴訟の形成過程」)、他の行政法研究者の意見を聞くこともできた。その結果、「研究実績の概要」で記した成果を得ることができ、次年度は概ね研究成果を最終的にまとめる段階を残すのみとなった。 この他、平成28年度に行ったヴァイマル期の状況に関する研究の成果を、所属する大阪大学の紀要に発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、第2次世界大戦後の状況に関する研究の成果を、所属する大阪大学の紀要に発表するための作業を進めて、本研究のまとめを行う。また、ドイツの場合、抗告訴訟と当事者訴訟のそれぞれの意味と両者の関係性に関する理解が、歴史的に見て変化してきたということが本研究の過程で分かったが、現時点でそれは断片的な認識に止まっている。そこで、本研究の終了後にかかる問題を歴史的経緯に沿って包括的に考察するための準備として、抗告訴訟と当事者訴訟の関係に関わる文献や判例も可能な限り収集し分析を行う。 研究計画によれば、平成30年度は出張を予定していなかったが、上記の課題を遂行するために、必要に応じて他大学の図書館の訪問利用などを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 次年度使用額が生じたのは、まず、研究の遂行に当たって収集すべき資料が、相当程度、所属機関である大阪大学、及び京都大学など関西圏の大学に所蔵されていたことによる。その結果、当初の予定ほど文献を購入する必要性が生じなかった。また、研究資料を収集するための国内出張も、申請時は3回を予定していたが、上記の理由及びドイツへの出張で十分な資料収集ができたことにより、実際には2回で済んだということもある。 (使用計画) 平成30年度も、新たに刊行され、研究に不可欠な文献の情報を集めて積極的に購入する。特に、ドイツの行政訴訟の歴史をテーマとしたハンドブックが刊行されるようであるが、刊行が遅れているようであり、出版され次第直ちに購入したい。さらに、文献収集の範囲を広げるなどして、研究環境の整備にも努める。
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