平成30年度は、ドイツにおける行政訴訟の類型の歴史的展開のうち、昨年度に実施した第2次世界大戦後の状況に関する研究の成果を、所属する大阪大学の紀要に発表し、本研究のまとめを行った。 本研究では、19世紀後半から第2次世界大戦後にかけて、ドイツにおける行政訴訟の類型の整備・拡大の過程をたどってきたが、その全体を振り返ったとき、例えば次のような特徴を指摘することができる。 1.確認訴訟、義務付け訴訟、行政行為の無効確認訴訟に関しては、もともと一定の観念を前提にその許容性が否定されてきたが、それらが権利保護に対して果たす機能に注目されるようになった結果、肯定されるに至るというプロセスが見られた。 2.その一方で、訴訟類型の拡大により、取消訴訟が従前担っていた役割から解放されるという状況も看取された。具体的には、無効の行政行為を直接に争う場合や行政行為が違法であったことの確認は、かつては取消訴訟で行われていたが、第2次世界大戦後に行政行為の無効確認訴訟や継続確認訴訟が整備されると、それらの訴訟類型によることになった。そうした変化は、理論的には有効な行政行為の存在を前提とする取消訴訟が、当時は認められていなかった訴訟類型の代替として用いられていたところ、訴訟類型の拡大を受けて、むしろ理論的整合性が重視されるようになったと評価することもできる。 3.ドイツにおいて行政訴訟の類型は第2次世界大戦後に大幅に拡大したが、その理論的基礎の多くはヴァイマル期の学説によって形成されていたと言える。他方で、訴訟類型の拡大との関係でドイツ連邦共和国基本法19条4項が与えた影響は、その保障範囲を初期の多数説が抗告訴訟における概括主義に限定したこともあって、主には、予防的権利保護を容認したり、継続確認訴訟に関する規定の準用を肯定したりする場合に限られていたと考えられる。
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