冷戦後の国連安全保障理事会の機能変化に伴い,狙い撃ち制裁をはじめとして個人に直接的な影響を及ぼす活動が増加している。そうした変化を国際立憲主義(具体的要素として,法の支配,権力分立,人権尊重,民主的正当性など)の観点から捉え直す研究が進んできているが,そのうち民主的正当性に関する議論は,まだ十分に行われているとは言えない。本研究では,安全保障理事会の活動において民主的正当性の要素を取り込むための原理として,国際法の各領域において国際組織と国家の関係を規律する原則の一つとして発展してきた「補完性原則」を取り上げ,同原則の観点から様々な実行を検証し直した。 最終年度は,これまで研究会等で発表してきた内容を論文としてまとめる作業に力を注いだ。具体的には,狙い撃ち制裁やいわゆる国際立法の実行に照らして,安保理における補完性原則の可能性を検討した東大国際法研究会(2017年1月)での報告内容をさらに深めて,『国際法研究』第6号に掲載することができた。また,研究過程で昨今の大規模な移民・難民の移動をめぐる現象も国連と加盟国(また加盟国間)の権限配分(「責任の共有」)問題を惹起しており,補完性原則の観点からも検討すべき素材であることが分かったが,それも研究に取り込む形で取り組んだ。これについては,萌芽的ではあるが,2016年9月国連総会採択のいわゆる「難民及び移民のためのニューヨーク宣言」を中心の素材として検討を進め,英文で論文を公表した。 なお,本研究の成果も踏まえて2018年6月に日本国際連合学会で報告を行うことになっている。
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