本年度は、より議論の蓄積のある著作者人格権の処分可能性の準拠法につき分析した。我が国では一身専属・譲渡不可能である著作者人格権について、国際的にその処分が論じられた時、特に著作者人格権の処分あるいは不行使を約する渉外的な契約が締結された時に、その処分の可否を定めるべき準拠法を検討した。検討には欧州及びアメリカを対象として比較法的手法を用い、既存の法制及び著名な立法提案を中心とし、我が国の公知の立法提案と比較した。その上で、著作者人格権の処分可能性の準拠法につき、契約準拠法による見解は否定されるべきとの結論に達した。その理由は、契約準拠法は当事者自治の原則に委ねられるため、当事者が恣意的に準拠法を選択する危険が否定できない上に、当事者の力関係が対等とは限らないことが指摘される。著作者の最後の手段としての著作者人格権の役割に鑑みれば、契約準拠法への送致は妥当でない。 契約とは別個に扱うとして、権利の帰属と処分可能性の問題は同じ法により規律されることが妥当である。連結政策として保護国法説と本源国法説が対立する。前者は利用者の予測可能性、後者は単一準拠法という点で、それぞれ利点があるが、法的安定性や一括処分の場合の効率性を考慮すれば、本源国法の方が簡明であり、妥当である。しかし、複数国同時公表や、複数著作者による創作など、再検討すべき今日的課題は残る。 上記に加えて、渉外的なプライバシー及び個人情報の保護に関する分析に取り組んだ。特にプライバシーを中心とする人格権侵害の準拠法の問題は欧州でも中心的課題となっており、その議論状況について、フランスを中心とした比較法分析を行い、我が国の議論に示唆を呈示した。さらに医療情報を例として個人情報の流通に関する現状についての検討にも取り組み、現在では、「保護」すなわち情報へのアクセス遮断や削除のみでは実務上問題が生じることを明らかにした。
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