研究課題/領域番号 |
15K16929
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
沖 祐太郎 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 講師 (90737579)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中東地域秩序 / 国際法の受容 / アラブ民族主義 / レバノン系移民 |
研究実績の概要 |
本研究は、国際法と中東地域秩序の関係を解明することを目的としている。この目的を達成するために本年度はまずは当初の予定通り中東地域秩序概念の意味内容・その全体像を描写するための調査・整理・分析を行った。具体的には中東地域秩序を直接論じるムハンマド・サイード・アフマドの論文や新聞記事を収集・分析しているほか、特に中東地域秩序概念の一つの源流になっていると考えられるアラブ民族主義に注目した検討を行った。その結果、未だ研究途上ではあるもののこれまでのところ、シャキーブ・アルスラーン、アミーン・アルスラーン、ユースフ・ハマーム・アースアーフなどといったレバノン系アラブ人がアラブ民族主義的な目的を持ちつつも「国際法」知識の伝達に寄与していたことが確認できた。これらの人物は、国際法学においてはほぼ完全に知られておらず、中東研究においてもシャキーブ・アルスラーンを除いてほとんど言及されることのない人物である。しかしながら、アラビア語文献に注目する限り、これらの人物が果たした役割はきわめて重要であることが明白であり、このため国際法学、中東研究にとっても重要な研究上の寄与となる。来年度以降は、国際法にもアラブ民族主義にも積極的に関与しているこれらの人物こそが中東地域秩序概念の形成・展開に重要な役割を果たしたとの想定のもと、これらの人物の人的連関や社会的・宗教的背景等を検討していく。 また、さらに本年度においては、平成28年度に予定していた「中東地域秩序」にかかわる中東諸国の実践や地域的国際機関の実行についても、1973年に出版された『統一に関する討議についての報告書』という中東諸国首脳の統一に向けた国際会議の議事録を入手し、この分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究の主たる調査地として想定していたエジプト、同地での政情不安の場合の補助的な調査地と想定していたトルコともに政情不安等の事態が発生したこともあり、当初予定していた中東地域秩序に冠する網羅的な文献調査は、必ずしも十分に行うことが出来なかった。この事実のみであれば、本研究は少なくとも「やや遅れている」と評価せざるを得ない。 しかしながら、中東地域秩序の一つの源流であると考えられる「アラブ民族主義」そしてイスラーム世界にとっては外来の「国際法」、この両者のアラビア語世界への伝播・普及に重要な役割を果たしたと考えられるレバノン系移民の人々による著作を多数収集することができ、これらの分析を行えていること、そしてさらに本来であれば来年度に予定されていた中東地域秩序にかかわる諸国の実行を検討する上で極めて重要な資料も既に入手できたことから、全体としては「おおむね順調に進展している」と評価することが可能であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは平成28年度中に「中東地域秩序」に関する基礎的な資料・文献の収集を追加的に行う。この作業は、エジプト・カイロ市に所在する諸資料館(主としてエジプト国立図書館・公文書館、エジプト国際法学会)において行う。9月、12月、2月の3度を予定している。 この追加的な資料収集と並行して、本年度の研究の結果得られたレバノン系移民の重要性に注目した調査・分析も行う。具体的には国際法に関連するアラビア語著作を著しつつも、アラブ民族主義に寄与するための著作活動も行っている多数のレバノン系移民の人的なネットワークをまずは確認する。そして彼らの著作とその傾向とを中東地域秩序へのつながりという観点から概観する。これらの研究のために必要な調査等もカイロにおいて行うことが基本的に可能である。 また、昨年度中にすでに一定の進展があった中東地域秩序にかかわる実行についての研究は、すでに手元にある『統一に関する討議についての報告書』を中心的に分析しつつ、関連する先行研究の収集・分析にも努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究にとって主たる資料収集地であったエジプト・カイロ、そして補助的な資料収集地と位置づけていたトルコ・イスタンブールともに治安が悪化したため、渡航を自粛した。そのため、両国に対すると旅費としていた予算を使用しなかったために、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度中は上述のような理由で渡航を自粛したものの、本年度は昨年度、十分にお超えなかった資料収集を行うためにに複数回の渡航を予定している。当該渡航にかかる旅費として助成金を使用する予定である。なお本年度中の渡航の可否については、短期間ではあるが本予算を使用せずにエジプトカイロに渡航した(平成27年度末)経験から、問題がないものと判断している。
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